2006年02月08日

ミネルバ逃げ水2 おまけ。

大したことないんですけど、とりあえず形にしてみました。
よかったらどうぞ読んでやってください。

無断転載複写等は厳禁です。


 

 シンは異変に気がついた。
 なんだか頭がぼーっとして、ここ何分かの記憶がひどく曖昧で、意識が混濁している。
 どこだ、ここは? 確か自分はベンダースペースに新入荷した微炭酸飲料を試飲しにきて、くつろいでいたんじゃなかったか。
 辺りを見回すと世界がでかいことに気付いた。それに、目線がやけに低い。肌がふさふさするし、四つんばいにならなければ前にも進めない。二本足で歩くことができない。
「わん、わんわん、わん!」
「キャー! い犬よ、犬がどうしてミネルバに!!」
 出くわした乗組員にこれはどういうことかときいてみても、いつも以上に反応が悪いし、どういうわけか話がまるで通じない。
 誰も自分がシン・アスカだとは気付いてくれないのだ。
 おかしいな。フロア一つ移動するのにも道のりが長く、険しい。部屋に帰れない。部屋がどこにあるかもだんだんわからなくなってきて、行き場をなくしたシンが途方にくれていると、レイが見つけてくれた。
「シン! おまえ、こんなところにいたのか!」
 レイは驚愕した面持ちで、しばしシンを凝視していたが、やがて何かに思い至ったように、突然そう叫んだのだった。
「きゃん、きゃうん」
 そう、そうだよ、俺だよ、レイ!
 レイだけはちゃんと俺を見つけてわかってくれるんだな。
 ケンカしてたはずなのに、レイは優しい笑顔でシンを見ていた。
 シンは救世主の登場に感激のあまりうるうるした瞳でレイを見上げた。その可愛さに、レイは感極まったような表情を作ると、軽々とシンを腕に抱き上げたのだった。
 レイ、レイ、なんか俺、変なんだ、まるで犬になったみたいに…
「そうか、シン…俺のために犬になって戻ってきたのだな」
 レイがシンの頭を撫でながら、胸がいっぱいだとでもいわんばかりの声でつぶやいた。
 犬? 俺、もしかして犬になっちゃった? どうりで全身毛がふさふさするわけだ。歩幅は狭いし、言葉は通じないし。
「よし、部屋に帰るぞ、シン!」
「きゃう!」
 部屋に戻ったシンはレイの厳しいしつけ訓練を受けた。お手、お座り、待てとトイレの練習。シンは言われるがまま、血のにじむような訓練を耐え、すべてをクリアした。
「よし、よくやった。偉いぞ、シン」
「わん、わん!」
 もっとほめて、ほめてレイ!
 成功のご褒美に、その都度砕いたビスケットをレイはシンに与えた。シンはそのご褒美欲しさに訓練を頑張ったのだった。
 訓練の後、部屋の姿見に映った自身の姿に、シンは我が目を疑った。やはり、犬になってしまっている。真っ黒な毛並み、赤い瞳の小さな子犬がそこには映っていたのだ。シン・アスカの姿はまるでなく、名残といえば毛並みと目の色くらいではないか。
 なんでまた犬なんかに…どうやったらもとに戻れるのだろうか。しかし、この姿だとレイが優しいし、意地を張ってケンカの続きを戦わなくてもいいのだ。しばらくは犬でいよう。それでいいや。
 レイはシンを連れて人気のうせた食堂の調理場へ向かった。シンのために夕飯をこしらえるというのだ。レイは冷蔵庫から勝手に材料を調達してきて、鍋を火にかけ、手際よく調理を済ませてしまった。
「腹が減ったろう。今晩のお前の食事はこれだ」
 皿によそって与えられた食事を、腹の空いていたシンはがつがつと口から胃へかきこんだ。レイが自分のために栄養バランスを考え抜いて作ってくれたエサだ。まずいわけがない。
「うまいか?」
「きゃうきゃう!」
 うん、おいしいよ、ありがとうレイ。
 調理場に子犬のかわいらしい声が木霊した。
「そうか…ゆっくりしっかり噛んで食べるんだぞ」
 レイは優しさに満ちた瞳でエサにがっつくシンを眺めていた。とても幸福そうに。シンの頭を、背を毛並みの流れに沿って撫でた。

 その頃のベンダースペースに、ヨウランとヴィーノの姿があった。
「あれー、殿、この赤服ってシンのじゃね?」
 赤服やシンのものと思われるインナーが、床にまるで中身がすっぽり抜けたように脱ぎ捨ててあった。蛇の脱皮みたいな感じだ。
「シンのヤツ、透明人間になる薬でも開発して、透明人間になったちゃったのかね? 悪口いったらそのへんから拳でも飛んできたりして」
 などと、シンのバカ、悪魔、ヴィーノはシンへの悪口を並べ立ててみるも、当然ながら透明人間からの反応はなかった。
「んー…? こんなところに脱ぎ散らかしてあるのはどういうことだ?」
 ヨウランがヴィーノのボケを正面から無視して首を捻った。
 持ち主だけが煙のように消え失せた軍服を見つめながら。

 レイは調理場からくすねてきた空き箱にタオルやなんかを敷き詰め、シンのための寝床をしつらえてくれた。
「今日からしばらく、ここがおまえ…シンの寝床だ。では、おやすみ」
 シンを箱ベッドに寝かしつけると、レイは自分のベッドに入って明かりを消してしまった。
 え、一緒にねないの? 久しぶりだから、一緒に寝ようよぉ。
「きゃん、きゃん、きゃうううん」
 シンは寝床を抜け出し、レイの枕元へ駆け上がって、そのやわらかな頬をなめた。
「こら、シン…おまえの寝床はあそこだろう?」
 レイの口調はあきらかにいつもより優しい。シンは懸命に一緒に寝たいのだということをレイの瞳に訴えかけたのだった。
「きゃん、きゃん」
 ねぇ、いいでしょ、一緒がいいよ。
「わかった…今夜だけだぞ」
 根負けしたレイが、シンをベッドに迎え入れてくれた。シンは早速レイの胸の脇に収まって、頬ずりを繰り返した。
「よしよし。…おまえはかわいいやつだ」
 レイがあの温かな、この世界の優しさを全部集めてきたみたいな、あの優しい眼差しでシンを見ている。口もとにはなにもかもを許してくれそうな優しげな微笑。
 そうだ、俺、こいつにこうやって愛されてたんだ。
 あの眼差しに、いつも見守られてきたんだ。
 シンは忘れかけていた事実を思い出し、レイに与えられるものを思って、幸福感に満たされながら眠りに落ちた。

 翌朝。
 目を覚ましたレイは、ぎょっとなった。
 隣りに寝ているはずの犬に挨拶をしようとしたが、そこには話し合いが物別れに終わった揚げ句部屋を出て行ったシンの、それも裸体が横たわっていたからだ。
「し…シン……?」
 肩を揺らすと、シンはうっすらと目を開け、目を擦りながら体を起こした。
「あれ…レイ……おはよう……」
「ああ、おはよう…おまえ、いつ帰って…」
「うん…えーと、いつ帰ってきたんだっけ…頭がぼーっとするんだ。よくわかんないけど、オレ、今とっても満ち足りた気分だよ」
 シンは胸に充満する充足感に、緩んだ表情をレイに向けた。
「それに、そこにいた犬は」
「犬…? 知らないよ…ミネルバに犬がいるわけないじゃん。変なレイ」
「……それもそうだな……」
「あれ、でも、なんでオレ、素っ裸なの? 昨日やった覚えはないのにな」
 シンは自分の素肌のあちこちを検分したがどこにもレイに愛された跡はなかった。
 自身の体のあちこちを捻ったり首を傾げたりしながら確かめているシンの姿を見ていたレイは、とある事実に行き着かざるをえなかった。
 それは自分でもつい笑ってしまうようなおかしなものだった。
 仲直りをするために、捻くれ者のシンが犬になって戻ってきて、心のわだかまりがなくなってことでまた人間に戻ったのではないか、と。
 どこかのおとぎ話じゃあるまいし。
「なに、思いだし笑いしてんの? レイのエロエロ」
「そんなに跡を探したいなら、俺がその願いを叶えてやろう」
「え、わぁっ!」
 微笑したレイは、素っ裸のシンを抱き込んで、シーツの白い海へダイブした。


(おわり)

もしシンが本当に犬になってたらヴァージョンでした。
くだらなくってスンマセン(泣

posted by 百武 晶 at 19:33| Comment(0) | TrackBack(0) | ミネルバ逃げ水 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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