2005年08月05日

SEED-D 40話SS「ネペンテス」(前)

42話放送後に気が変わったらお終いなので、腹をくくってアップします。
40話はのっけからシンが罪悪感に苛まれ悪夢にうなされるという、突発的で今さらな都合の良い修正が入ったことに、とてつもない危機感を覚え、いいようもなく焦りました。
なんていうか、辛抱たまらん…?
そんな修正、37話の段階で入れとくべきだろ!っていう…

あんなにうっかり、ひょっこりルナマリア嬢とくっつけられるよりも、むしろシンはレイに心身ともに繋がれていたってほうが、よっぽど説得力があるよなーと婦女子的目線を排除したとしても思ったんですけどね。

シンがこれくらい考えていたらいいな〜
レイがシンにこれくらい優しくて、そして残酷だったらいいな〜と…
アバンタイトルの五分を力技で引き伸ばしたこうだったらいいのに〜SS。
読んで下さる奇特な方は、以下の注意事項を必ずお読みになって、そして守って下さい。

・観点が完全にシン擁護です。
・「レイシン」です。
・「やおい」です。
・16歳以下は読んではいけません。脳みそが汚染されます。
・でも、エロが目的ではありません。
・無断転載はしないでください。

ご理解いただけましたら、どうぞ。


  
   「ネペンテス」

 悪夢にうなされた。
 今さらながら。
 殺し、壊しまくった俺にも未だ、良心なんてものが残ってたらしい。
 そんなのとっくに滅びたと思ってた。

 アスラン・ザラとメイリンが並んで立ってこっちを見てた。
 薄暗い表情。なんて恨みがましい目をしてる。口は固くつぐんだまま。
 何で、なにも言わない?
 迷いも葛藤もかなぐり捨てて、考えることを放棄した頭で、
 怒りにまかせてお前たちを殺した俺を、責め立てればいい。
 そうすべきだろ。そうせずにはいられないだろう。
 当人のお前たちでさえ、俺を責めてはくれないと。
 そういうことか。

 たとえば、刃物を体に突き立てて殺めたなら、生命を奪った感触がこの手に残ったのか。
 血を浴びれば、実感を得たのか。
 もっとどうしようもなく身につまされたのか。
 俺はやっぱり、間違いを犯したのか?
 いや、でも俺は正しかったんだ。間違ってなんかないはずだ。
 誰も、俺を罵らない。蔑まない。
 誰も、俺を褒めた。
 なにより、俺には魔法があったから。
 俺はなんも悪くないって、悪いのは裏切ったあいつらだって、
 なにもかもを他のせいにするの、平気だとそう思っていた。
 
 けれど、どれだけうまく現実から目を背けたとしても、逃げきれそうもない。
 罪悪からは。
 それを、今になって思い知らされている。
 人としての正心を捨てきれない弱さが、
 それすら崩れ行く予感が、
 ただ、じわりじわりと脳髄を焼かれていくような、得体の知れない痛みが、
 たまらない。

 歪んでる、ぜんぶ。
 頭痛がする。
 鈍痛に襲われる頻度が高くなっている。間隔が、やけに短い。
 正体の見えない不安が、俺の苛々を加速させる。
 苛々が不条理な怒りの増産に拍車をかける。
 誰が悪いんだ、誰のせいなんだ。
 矛先を向ける的が欲しい。
 じゃなきゃ、不具合を起こしそうだ。

 ルナマリアの縋り付くような、雑多な感情を含んだ視線がうざったい。
 イライラするんだ、あれ。
 言いたいことあるなら言えよ。
 言えば楽になんだろ、少なくともお前は。
 言ってくれりゃあ、俺だって……
 言わないなら、こっち見るなよ。
 こんな足元ぬかるんだ、まだるっこしい関係になるんだったら、
 一時の考えなしの感情で、なぐさめるんじゃなかった。
 軍や議会のお偉方に囲まれた部屋の真ん中で、勲章を授与されながら、
 俺は、そんなことばかり思ってた。
 バカの一つ覚えみたく、いつも通りレイに倣って、受け答えはしていたけれど、
 誰の言葉も聞いちゃいなかった。
 功績、称える、貢献、褒賞とかって。
 ぶっちゃけて言えばあれだ。
 いっぱい殺してがんばったで賞、みたいな感じだろ。
 そう言やあいいじゃん。
 赤服の左胸に二つ目の勲章が、ぶら下げられて、それがやたらと重いんだよ。
 一つ目貰った時と同じように、後で、こんなものは海に捨てよう。
 深く、海底に沈んで、いつか魂が解き放たれるその時まで、静かに眠れるように。

 ケースの中、繻子に抱かれた純白の片羽が輝いている。
 照明の当たる角度を変えて、俺は輝きの変化する様をぼんやりと眺めてる。
 あんまりアスラン・ザラが期待から外れる奴なもんで、嫌味と皮肉で言ってやったことがある。
 俺があんたの分まで働いてやるから、その胸の徽章をくれよって。
 そのアスラン・ザラを殺して得た対価が、フェイス任命だと。
 まるっきり、俺があんたの命と同時にフェイスの徽章まで奪い取ったようじゃないか。
 笑えるな。
 笑え過ぎて、涙が出るな。
 おもしろい様に、力とそれに付随する余計なものが手に入るけれど。
 俺が守りたいと思ったもの、守れたためし、ないな。
 本当に欲しいものが、手に、入らないな。
 なんでかなぁ。

 絶対に手の届かない存在ってあるだろ。
 偶像、雲の上の人。
 言い方はいろいろだろうけど、俺にとってのそれはデュランダル議長だった。
 生涯縁がないと思っていた人物から惜しみない称賛を受け、大いに期待され、いつかの俺は舞い上がって跳ねる鼓動を静められなかった。緊張と興奮の波が交互に押し寄せては、マトモな思考力をさらい、頭を溺れさせた。舌は回らず、言葉を噛むばかりの俺の有り様に、皆はさぞや、笑いを堪えるのに必死だったろうな。
 黒海沿岸都市に差す夕陽の美しさとは裏腹に、俺はあの時、より一層「戦争」という二文字に対する憎しみを強くしていた。
 その憎しみは、今やいびつにかたちを変えている…。

 たまに、自分がわからなくなるよ。
 自分がなにものであるのか、誰だったのか、わからなくなることがある。
 五体から自我意識が、ふわりとかい離するように。
 つまりは、夢と現の境界線が曖昧で、そこを飛んでいる。ふらふらと。

 あの時あんなに俺の心を捕らえた、敬愛すべき議長の言葉が、胸に響かない。
 どこか、空々しく、耳朶を素通りした。
 遥か古代に地上を闊歩していた生き物の化石だとか、
 奇跡の二足歩行を果たした愛玩動物なんかも、
 ほんのたまに目にするから価値があるわけで。
 しょっちゅう拝んでいたら、飽きるに違いない。
 俺の飽きっぽさといえば、度し難いと隣人の折り紙付きだ。
 釈迦の有難い説法も、毎日聞かされると、ただの口うるさい説教に。
 そんなとこだ、たぶん。

 釈迦と度々面会叶って、ジブラルタルに入ってからというもの、レイの機嫌は最高潮にいい。
 アスラン・ザラとメイリンを追い詰める時も、それはそれは楽しそうだった。
 新しい人格プログラムでもインストールされた?
 そう、からかってやりたくもなったさ。……しやしないけど。
 ぼぅっとなったまま動かないのを見兼ねたのか、レイが俺の手からケースを奪い去り、中の徽章を取り出して、制服の襟もとに手際よく取り付けてくれた。
「なかなか様になる」
 夢の貴公子めいた秀麗な顔が、俺の目を覗き込んで微笑した。
 つられて俺も下手な笑顔を返した。ほとんどクセだ。
 そして、レイに耳もとで言えと囁かれた科白を、そのまんま口にした。
 こいつの言う通りにしてると、間違いがないから。
「俺…あ、いや……自分も頑張り、ます」
 俺って、いつまでレイのパペットやってくんだろう。

 あぁ、アタマ痛いな…
 薬、効かないみたいだ。
 …イライラするな。


 辺りは薄暗く、白黒とまでは行かないが、古びたフィルム映像のように退色している。
 音はない。聞こえるのは俺の荒い息遣いくらいなもの。
 やっぱり、あの二人が無言で俺を見つめていた。
 …いや、二人だけじゃない。なんか、増えてる。
 その背後に顔も名前も知らない、儚げな少年じみた男がぬらりと立っている。
 三人だけでもない。もっと後ろの暗がりから、形の定かでない闇の人影が次々、次々と立ち上がる、立ち上がる…
 誰だ、誰か、分からない、知らない、お前らなんか知らない。
 逃げたい。
 なんにも見たくない。
 踵を返そうとして、俺はその場に立ち尽くすしかなかった。
 足元から這い出した何かが、俺の両足をその場に縫い付けていたからだ。黒くどろりとして、明滅しているようにも見えるそれは、どうやら人間の手だった。離すまいと絡みつく手という手は、熱くも、冷たくもなく、生気がなかった。闇そのものにしがみつかれたかのようなおぞましさが、背を駆け上がった。
 三人の後方で生まれ続ける闇の人影が、次々とくっついては同化し、一つの巨大な塊を形成し始めた。
 どんどん肥大して行く闇が、視界を覆う。覆い尽くそうとした時、ぴたりと肥大化が止まった。
 塊が、内側へ向かって二回り分ほど収縮したかと思うと、中から、物凄い勢いを伴って、無数の腕が吐き出された。
 俺に向かって。
 闇の手の群れは、まっすぐ俺の躯体を貫くのだと思った。
 幾百、幾万の痩せた指は、俺には目もくれず、頬すれすれを通過して行く。
 たぶん、恐怖という感情にわなないていた俺には、為す術が無かった。
 そうだ。
 いつも、運命は、俺そのものには危害を加えないんだ。
 俺が背にして、守りたいと願っているものを、奪い去る。
 だから、俺にはもうなにも残ってない。ないだろう。そうじゃないか。
 守りたいもんなんか、もうなんにもないよ! 有らん限りの声で叫ぼうとも、声帯が空しく震えるだけで、声は音にならなかった。
 叫んでも、叫んでも。苦しみが喉を焼くばかりだ。
 口の中が乾いてカラカラだ。いつのまにか肩で息をしている。鼓動が早鐘のように打ち、呼吸の苦しさが焦燥に取って代わっていた。
 俺を越えて背後に伸びる手の群れが何を目指しているのか、行方を確かめなきゃ…
 そう思って、俺は、錆びついたブリキ人形のように動かし難い首を、どうにかして回した。
 大きく見開いた両目に映し出された光景が、すぐに滲んで、ぼやけた。
 数えきれない闇の手が、俺の代わりに貫いていたのは、
 俺から次に奪おうとしているものは……
「…いやだ、やめろ…やめてくれ……!」

 この世の悪と偽りを、残らず焼き尽くしたかった。
 そう望んだけど、この怒れる瞳は、そこまでの力を兼ね添えてはいなかったってことを。
 俺のちっぽけな憎しみは、周囲の人間たちを順々に焼くだけだってことを。
 なに一つ守れやしない現実を、どうしたって無力な自分を、受け入れたくない。
 気付かないふり、いつまでもしていたい。
 もう、なにも失いたくはないのに。

「シン…シン……」
 レイの落ち着き払った声と、控え目に胸を揺する手が、俺を悪夢から引き戻した。
「あ…レ、レイ……。あ、明かり、点けて……!」
 暗闇の中で、様子を窺おうと身を乗り出したレイが、夢に出た闇の人影に見えて、恐ろしくなった。
 急速な覚醒が、悪夢と現実を混同させてる。
「大丈夫か…うなされていた。ひどく」
 レイの声が遠ざかり、部屋の照明が会話をするのには事足りるだろう明度を取り戻した。
「ああ…そう……。また、叫んでたんだろうな…」
 情けないことに、俺の寝言はやたら明瞭で聞き取るのに何の労も要さないんだそうだ。どこまで弱みを知られたのか探っておきたかった。レイは答えるだろうか。
「叫んでいた。…お前らなんか知らない、もう何も残ってない、やるなら俺を殺せ……」
 如何にも、今、悪夢を見ていますってうわ言のオンパレードだ。
 ぺたぺたとレイの素足が床を歩く音が近づくまでに、上がった息を整えながら、俺は頭を抱えた。エスパー並に察しの良いレイは、少しの手がかりで全体像を推量してしまえるらしいから、俺が気に病んでる事象が何かとか、だいたいはバレてしまったろう。
「それに、あとは…何度も、俺の名を」
 言いながらレイが飲料の容器を差し出した。上半身を起こしてから、おずおずと受け取ると、マットレスが重く沈んだ。レイが俺と目線を同じ高さにするのに、ベッドに乗り掛かったからだ。
「お前の悪夢の登場人物に、いつから俺は名を連ねるようになった?」
「え、レイ…は出てきたっけ…出てきてないよ。だってあの夢には死人しか出てこない…」
 俺は、レイから顔を反らして、飲料に口をつけた。冷えた液体が喉を通る。不安も恐怖も胸のつかえも、まとめて押し流してしまいたくて、容量のほとんどを一気に飲んだ。
「まあいい。差し当たり、悪夢の主な共演者はアスラン・ザラやメイリン・ホークか」
 レイが注意深く俺を観察しながら言った。
 もう、誰の口からも聞きたくない名前だ。俺は、苦々しく眉をひそめた。
「…そう、そうだよ…!」
 よく、わかったね。とは思わなかったから、大人しく認めた。
「裏切り者」
 レイの声が、狙いすましたような冷酷さで響いた。
 胃を満たしたばかりの水分を、凍てつかせるだけの威力はありそうだった。こんな声音、そう何度も聞いたことがない。静かな、おそらくは蔑みを含んだレイの怒りに、俺は身を固くした。
「彼らは裏切った。裏切り者は敵だ。敵は排除して然るべきだ。違うか」
「違わないだろうさ。俺だってそう思ってる! この間からレイはそればっかり。でも…本当に」
「真実だ。それは動かしようがない現実だ」
 レイは俺を真っすぐに見据えたまま、顔色ひとつ変えずに、淡々とした口調で諭す。
「どうしてレイはそうやって即座に割り切れる? 命令だからって撃墜を実行したこと…ほんとに正しかったのか、俺はそれが引っかかって…!」
「正しかった。お前はやるべきことをやった」
「じゃあ、どうしてあいつらは裏切った…? 俺、わけわかんない。教えてよ、レイ。レイなら知ってるんだろ、なんだってわかるんだろ!」
 言葉を吐き捨てるごとに、血の気が引いて行くのがわかった。これ以上、言い分けがましいことをレイに向かって言いたくはないのに、俺は追い縋るように駆け出した声を止められなかった。
 俺とレイの様相の差違といったら、お互いの瞳の色を象徴しようってのか、まるっきり炎と氷だった。
 あの、同じ時同じ場所にいた人間とは思えない。
 迷い、葛藤、躊躇…なにも持たなかったなんて言うんだろうか。
「彼らが選んだ道、そして末路なのだから、仕方がない」
「仕方ない…? 俺、俺…殺したんだぞ、さっきまで仲間だった人間を……!」
 俺は部屋じゅうに響き渡る大声で叫んでいた。顔面は蒼白になり、唇は色を失って震えている。
 たまらずに、俺は頭を垂れた。せめて泣き出さないように、歯を食いしばる。
 ずっと胸の奥深くに病魔のように巣くっていた罪の意識を、よりによってレイに白状してしまった失計のばつの悪さに、自己嫌悪が襲った。

                          
-TO NEXT-

      二回分けです。続きは明日。
      シンの一人称にしたはいいが、となると誰かに名前を呼ばれない限り、
      「シン」って書けないことに途中で気付いたり。
      うちのレイはシンのこと「お前」としか言わないし…
      後編は画面が「レイ」で埋まります。
posted by 百武 晶 at 01:51| Comment(0) | TrackBack(0) | SEED-D小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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