2005年09月27日

SEED-D 48話SS-1「ニアデス」

レイ・ザ・バレルのこれまでを捏造。
「ネペンテス」の延長線上にある話ということになります。
レイによるシンへの支配。ところがどっこいシンの洗脳返し発動。
シンが自己主張する。
シンの出した答え。レイが自分で気付いた真実。

・やおい。
・レイシン。
・18歳以下閲覧禁止。
・無断転載禁止。

二話構成。




          「ニアデス」


 俺に名は無かった。
 無機的な血の通わない数字の羅列で呼ばれていた。
 人間ですらない。様々な実験の対象とされる被験体という物でしかなかった。
 冷たい石の壁に囲まれた牢のような部屋で、毎日考えた。
 自分は誰なのか。自分は何なのか、と。
 答えは出なかった。
 小さな胸に垂れ込める感情が悲しみであることも知らず、膝を抱えて自問自答を繰り返した。
 ある日のことだ。
 部屋を訪れたのは見慣れた白衣の研究員ではなく、赤い軍服らしきものを着込んだ金髪の男だった。
 幼い俺に向かって手を差しのべた男は、こう言った。
「君に名前をあげよう」
 記憶の中の男の顔は、声は、今現在の俺そのものだ。俺が、俺に言っている。この底の見えない迷宮から外の世界へ連れ出してやろうと。
「君は今日からレイだ。レイ・ザ・バレルと名乗るがいい」
 その日まで、俺はこの世に存在していなかった。
 名を与えられたことによって、この時はじめて、俺は生を受けたのだ。
 もう、自分が誰かなんて考えなくていい。
 レイ・ザ・バレル。
 それが俺の名前。
 実在根拠と自我を手に入れた。
 もう、俺はモノではない。ヒトだ。

「君はコピーだ。複製だ。
 どれほど上手く模倣したとしても、オリジナルには決してなれない」
 そう、男は俺に教えた。
 抑揚が豊かにありはしたが、感情というものを一切感知させない低い声は、胸の奥底をさらうような得体の知れない響きを持ち、それを俺は恐れていた。
 見えない手が精神の内側を探り、覗くだけではなく、抉ろうとするからだ。
 男が語って聞かせた話はどれも無機質且つ温度がなかった。俺は毎夜毎夜と床に就いては復唱した。呪いの言葉のように。
 古く劣化した細胞は、自殺し生まれ変わるその循環を持続する能力に著しく欠ける。
 多くの未来は望めない。
 俺は、生命の根幹に生まれついての欠陥を負っていたのだ。
 人間の複製。
 人の飽くなき欲望と愚かな夢が生んだ遺物、業の結晶。
 尊き命への冒涜とは、悪の昇華だ。
「ギゾウされたイノチ…?」
 では、俺は誰に望まれ、何の為に生まれたのだろう。
 また思い悩むことになった。
 世界はどうしてこんなにも暗い?

 程なくして俺はあの人の元へと送られる。
 引き合わされたのは、どこかのラボ。俺は、またモルモット生活に逆戻りさせられるのではと落ち着かず、男に引かれた手を離さないよう必死だった。
「やあ。君が、レイ?」
 暗がりでおびえる俺の髪を、その青年の優しい手が撫でた。
 その時見上げた微笑が、今も記憶に焼き付いて離れない。
 困ったように瞳が揺れ、悲しみ、哀れみ、惑い、同情、愛情…幾つもの感情が次々と映っては混じり行く様を、俺は生涯忘れないだろう。
 初めて出会った温かな感情を、この身に浴びる心地よさとは、何ものにも変え難く、胸の高鳴りを抑えることが出来なかった。
 俺は、この人が好きだ。
 なにゆえか、直感した。頭で考えるより先に魂がそう言った。
 細身の体躯に長い黒髪という見目が麗しく、洗練された身のこなしが美しかった。
 穏やかで思慮深い。指導者としての才覚、技量共に長け、先見の明に優れてもいた。
 ギルバート・デュランダル。
 何より、やさしい人だった。

 ギルバートは俺に全てを与えた。
 住み処や食事、寝床といった生活の基盤を始めとし、高度な教育はもちろんのこと、学びたいと願えばピアノでも乗馬でも、教えを受けることを許した。
 それに、人間としての愛情を与えた。俺が果たすべき役割を与えた。
「つくりたい世界がある。誰もが心穏やかに暮らせる、争いのない平安の世だ」
 彼が俺を膝に乗せながら、未来のことを語るのに、遠い昔話でもするような口調で言ったのは、一度や二度ではなかった。
「ほんとうに、誰も悲しんだり、いさかうことをしなくなるの?」
 俺はその、理想の世界を創造するという話が好きだった。
 自分とは何であるのか、何の為に生まれ、何の為に生きねばならないのかと、思い悩み苦しむ人間がいなくなるのなら、それがいいと思った。
 血よりもなお、涙の流れない世界を俺は欲していた。
「そうだよ。運命に従って一本の道を懸命に歩んでいれば、そんなことを考えなくて済むからね」
 予め人生の役割と居場所を決められた人間は、過ぎた夢も欲望も持つことはなく、高望みすることを忘れるだろう。己を知り、足ることを皆が等しく知れば、争いは起きようもない。
「運命を拒絶するのは愚かなことなんだよ」
「受け入れたらしあわせになれるのを、どうしてみんな知らないのでしょう?」
「これから教えてあげればいいことさ」
 だが、同時に、戦い、競わない生物に進歩は望めず、欲望が尽きた世界は、歩みを止め、沈黙に満たされることになるだろう。
 それでも、名のない人間は生きないように、人は己の運命こそを知る必要があるのだから、後退さえしなければ、人は幸せに生きられるのだと信じた。
 人の欲望が夢が業となり、俺のようなこの世にあってはならないものを作り出すというなら、そんなものは不要だ。
「ヒトは良くなれませんか?」
「どうだろうね。けれど、世界が変われば、人も変わらざるをえないさ」
 人は変われない。ならば世界を変える道がある。
 子供の考えることだ。発端は、ギルバートの望みを叶えてあげたい、そんな所だったろう。
 悪しき連鎖を破壊し、社会の仕組みを根底から覆した更地に、新たな秩序の種を蒔く手伝いがしたいと、俺自身が強く願うようになるのに、大した時間は要さなかった。
 世界を変革する。
 そう、そのために生きればいい。
 そのために生まれたのだ。
 自然の摂理からも、生命の輪廻からも外れた、忌まわしき人間の複製が、存在理由さえも手に入れた。
 明確な意志が道を照らす。
 世界はもう暗く沈んではいなかった。

 時を経て自ら入隊を希望したザフトの士官学校で、もう一人の俺に出会う。
 俺の移し身、俺の感情。
 シン・アスカ。
 騒がしい人波の中にあって、一人この世の果てへ取り残されたように、薄暗い顔をして立ち尽くす姿は、外界から孤絶していた。
 射干玉の黒髪に胸を焦がしたのは、あの人と同じ色の髪だったからか。
 常に苛立ちを抱え、怒りを周囲に撒き散らし、なのに許されたがってもいた、ひとりぼっちのシン。
 赤い瞳に、俺を迎えに来た男の瞳にあったのと同じ狂気じみた憎悪の念が、かがり火の如く、ちりちりと燻っているのを、俺は見逃さなかった。
 おまえも世界の終わりを見たいんだろう?
 そう、無言のまま問いかけた。
 俺たちは非なるもののようで、似ている。お互いの立っている場所がまるで違うように見えても、その足場は地続きだった。歩み寄ればすぐに会える。
 シンは戦争体験がもとで精神の安定を失調していた。心的ショックが尾を引き、脳の働きが正常ではないらしかった。
 主に、倫理や正しき行いについてだろうが、未来に関わる何かを考えようとすると、頭痛が襲うと言った。だから俺は、お前は何も考えなくていいと。答えが欲しければ俺に求めろと教えた。シンはそれを守り、実行した。
 シンの持つ、漠然とした戦争という概念に対する殺意は凄まじく、戦闘能力の高さは目を見張るものがあった。
 しかし、技能は身についても、感情を抑制できず、破壊衝動へ傾きやすいという精神面の未熟さが目立った。非日常に接し、混乱の中、判断を迫られる場面になると、すぐに逃げようとする。
 そこをフォローしてさえやれば良かった。
 欠落部分を補い、助けてやることでシンは目覚ましい成長を遂げた。進化といってもいい。彼は、彼自身の起源に記された運命づけられた因子を開花させたのだ。
 その過程を傍で見つめているのが、俺の喜びだった。
 混沌の世界に変革を促し、やがて新たに創造される世界を、共に護って行ける手だと思って、眼差しを向け続けた。
 目に付くのは不機嫌で浮かない表情が多かった。
 俺を探して彷徨う視線を掴まえ、微笑んでやると、反射的に顔を綻ばせる。
 シンの笑顔は、闇に差す光のように価値あるものだった。
 初めから、終わりまで。



 デスティニープランが公表され、導入が宣言された。
 ついに世界は受胎を果たした。
 あとは、生まれ出づるのを待つばかり、という所まで来たのだ。もっとも、排除せねばならない厄介な障害が残ってはいたが。


 味気ない、見慣れた部屋の天井を見上げていた。
 室内の照明は三割ほどに落としてある。シンは暗い方がいいと主張するが、相手の様子が見えなくては、面白みがない。
「…シン、力を抜け……痛い」
 刀身を半ばまで押し進めた後、内部の狭さと締めつけに息を吐いた。
「力なんか入れてないっ、そんなとこの加減できるもんか、アッ」
 生意気な抗議が長引きそうだったので、無遠慮にそのまま奥まで埋め込んでやった。いつものように強烈な拒絶に遭い、痛みに視界がちらついた。目を閉じ、それをやり過ごす。何度しても最初はこうなる。快いだけで済ませないところが、シンらしいといえばらしかった。
「俺を翻弄させてやろうと、いつもやってのけるだろうに」
 シンの喘ぎ混じりの悪口雑言が途切れ途切れに上がった。それでは本来の意図を成さないというような。
 俺をその身に受け入れているシンといえば、折り曲げた両足を左右に大きく開いて、蛙を裏返しにしたような無様な格好。もし、それを敢えて指摘してやったら、憤り余って憤死するかも知れない。
 シンが薄い紅潮を見せる顔に汗と苦悶の表情を浮かべている。
 さぞ苦しいのだろうな。前もって念入りに濡らしてやっても、小さな穴に、このような肉塊を押し込まれるのだから、正気の沙汰ではない。
「レイのほうこそ、う…動いてってば。苦しいんだよッ」
 焦れたシンが、浅く吸っては深く吐くという、不規則な呼吸を強いられながら、言った。
「そうはいかない。俺の形に馴染むまで、もうしばらくこのままだ」
「そ、そんな…っ!」
「そのあいだ、気を紛らわすのに自分で胸でもいじっていればいい」
 そう、微笑みかけてやると、シンが絶句したまま俺を睨みつけた。口が何か言いたげに動いていたが、空気を食むだけで、言葉にはならなかったようだ。
 シンの瞳が逡巡する。
 険しい表情が、プライドと目先の快楽を天秤にかけるという葛藤を経て、変化して行くのを観察するのは楽しい。
「レイ……」
 今にも泣きべそをかきそうな、情けない表情で、シンの双眸が俺に縋り付く。
 本当にやるの、と言いたげだ。飲み込みが悪い。俺は一度だけ大雑把に腰を打ち付け、シンをせっついた。同時に上がる、短い悲鳴。
 観念したシンは、ためらいがちに両手を色づいた胸の飾りへやった。
 強情張りが、こうして屈する瞬間を見るのは、もっと楽しい。
「目を閉じて、それが俺の手だと思えばいい」
 手に手を重ねてやると、シンの肩が大袈裟に跳ね上がった。白い目もとが朱に染まる。
 感覚過敏。心的外傷による負の産物。日常生活においては邪魔になるだけで、役に立つとしたら、パイロットとしての能力を発揮する時に限ると当人は忌忌しげだった。
 シンはぬくもりを恐れた。
 求めて、また失くすのが怖いのだ。
 しかし、与えられる分には、貪欲なまでに取り込もうとした。
 抱き締めてやると、腕の中で小さく震えるくせに、熱が欲しいと言い出す。
 優しく口を吸ってやれば、最近はもう抵抗もしなくなった。
「あっ、あぁっ…あっあっ、レイ、レイ、レイぃ…!」
 胸の突起は多少舐めはしたが、いらわずに置いてあった。充血することもなく、熟れてもいなかったそこを、シンの指が執拗に引っ掻き、摘み上げ、潰しながら小さな赤い実に変えて行く。
 閉ざした瞼の裏に俺の手の幻影を映して、その記憶をなぞっているに違いなかった。
 シンの腰がむず痒そうに揺れ出した。思わず抱き寄せたくなる細い腰回りは、裸体で見ると、より、頼りが無い。
 俺は広げた手のひらを、シンの腹部へ当てた。すっかり立ち上がり、雫を零す茎には目もくれず、皮膚の表層だけに体温が伝うよう、緩慢な動作で撫でさする。
「ひっ…!」
 細やかに張り付いた筋肉の下にある、内臓の容を探り出すのに指の腹に力を込めると、シンがおののいた。明らかに体が緊張で固くなったのが分かった。
 シンの白磁の肌はしっとりと汗に濡れていたが、手の滑りを妨げることがなかった。臓器の感触はどれも固い。俺が収まっているのを除いても、多少張っているようだ。つまり、それは内臓の機能が低下傾向にあるということを表している。
「ふ…あ……ひぅ…あぁうっ」
 内から外から他者に内臓を嬲られる恐怖に、シンの内壁が息づく。俺をゆるりと舐め上げるような、緩慢で、いい刺激だ。
「…ルナマリアとは、今も関係を続けているのか?」
「な…なんで、そんなこと……」
「手が止まってる」
 回答と自虐行為の再開を促すのに、爪を立てて、へそから下まで指を引いた。赤く浮いた筋を指の腹でたどる。シンが体を捩った。
「あっ、あっ、あうぅ……」
 白い素肌に赤い線がくっきりと浮き出る様は、いつまで見ていても飽きない。シンの濡れた声が耳に届くと、尚のこと背筋に快楽が走る。何度でも試したくなった。
 四本目を引こうとした時、シンが俺の手を掴んだ。
「ルナは…あれは…、ただの、勢いで……しなくちゃいけないような、そんな、空気だった…」
「おまえに、女を相手にする甲斐性があるとは思わなかった」
「い、一回きり…あれから、やってなんか…ない」
 シンの瞳を見下ろした。俺の機嫌が損なわれていないか伺っているのだろう、不安げに揺れている。俺の無感情な冷たい瞳に、微細な情動を見て取れるほど、シンは賢くは無い。
「そうか」
「し、信じる…?」
「…どっちでもいい」
 こわごわと、シンは掴んだ俺の手を胸の飾りへと導く。人さし指をからめとり、真っ赤に熟れた小さな粒を押し潰させた。操られるがまま、俺の指は粒を輪に埋没させ、更にその下の神経をくすぐるように爪を立てていた。
「んっ、んんっ、レイの、レイの指がいい」
 シンの絶頂が近い。内側がせわしく蠢き、それを知らせていた。
「…手を離せ」
 言いつけた通りにシンが解放した手で、そのままグミの実のように膨らんだ粒を、人さし指と中指で挟み込み、円状に激しく動かす。
 シンはもう一方を自分でまさぐり始めた。
 反り返った茎から流れ落ちた雫が、腹をしとどに濡らし、空いた手をやって撫でると、どこもかしこもベタベタだった。
「レイ、レイ…はやくぅ」
 快感を追いきれないシンが、達する為の刺激を求めて非難めいた声を上げた。相変わらず、俺が埋めたっきり動こうとしないからだ。
 シンはとうとう形振り構わず自ら腰を振り、俺の位置を変えよう動き出した。
「レイは、レイは…自分の物だと思ってる物を他人に取られるのが、腹立たしいんだ」
 シンが言う。乱れながら、喘ぎ、呼吸をつぐ合間に。
 それは、やたら鮮明に俺の耳に響いた。今度はこちらの手が動きを止める。自覚がない真実を言い当てられ、俺はしばし硬直した。
「おまえ、自分が俺に所有されている物だと、認めるのか」
 俺は、口もとを醜く歪めた。シンの右の膝裏に手を掛けながら覆い被さる。片側の足だけが上がり、腰が不自然に浮く格好だ。
「あぁんっ!」
「…おまえの言う通りだ」
 欲望が更に奥へ到達し、内臓を押し上げる感触に先端が痺れる。耳もとで囁きがてら、耳朶を噛んだ。
「あっ、はぁ!」
 シンの茎が脈打つ。連動してうねる内部までもが、大きく脈動した。達そうとするのを、俺の指が、ほとんど無意識に根元に絡みつき、縛めて、抑制していた。
 嬌声は、悲鳴にもなれずにくぐもった。
 間近で、シンの見開いた双眸が、苦痛とオルガズムを極められなかった仕打ちに、ぼろぼろと生理的な涙を零すのが見えた。紅玉の瞳が、俺の無表情をどうして、と見つめる。口の端を上げて見せると、シンは愕然となった。
「苦しいのも、痛いのも、おまえにとっては快感と同じだろう?」
 シンがしきりに首を横に振った。
 茎を縛める指すべてに力を込める。案の定、シンは痛みに顔を歪めるが、中は機嫌良く反応を返した。
「おまえの口は嘘吐きだ。中は素直に良いと言ってる。俺を包み込んでうねってる。まるで手で優しく撫でさすられるようだ。嘘吐きの舌は、抜いてやろうか」
 俺は舌を出して、それをシンの唇へ寄せる振りをした。シンの瞳が、口づけを交わせるという期待に踊って、迷いもせずに舌を出した。
 お互いの舌先が触れ合う寸前で、俺は舌を口内へ仕舞う。下腹部の縛めを解き、茎の裏筋を撫で上げ、先端の一つ目を容赦なくくじった。
「いっああああああああああ!」
 一度塞き止められた欲望の奔流は、より凶暴に、空いた出口から吹き出し、白い痕跡を、シンの顔に体に、俺の顔に体になすり付けた。
 燃え盛る内部が含んだ異物を咀嚼し、飲み込もうとするかのように暴れた。俺は、その襲い来る快楽の波濤に攫われるのを、シンの両肩に爪を立てて耐え忍んだ。
 爪が皮膚を突き破り、血の玉が浮く。二の腕へ流れる。シンの悲痛な鳴き声を遠くに聞いた。
「あ…くっ……」
 さすがに、腹の奥底から淫らな感覚が這い登って、歯を食いしばっても声が漏れた。
「はぁ、はぁ…レイ…レイ…」
 シンの手が俺の頬を撫でる。指が、顔中に飛び散った自身の放ったものを掬い取り、それを、シンは舐めた。
 絶頂に達した幸福の余韻に浸るシンの目は、焦点が定まらず、今にも溶け出しそうだ。正体をなくし、本能のまま、掬っては舐めるを繰り返した。
 シンから立ち上る芳香に、食欲にも似た欲望を掻き立てられ、俺は、シンの顔に舌を這わせた。せわしなく、まだシンの体温を残す白濁を舐めとる。
「シン、なにが欲しいか、言え…」
「キス、キスしてっ」
 シンの声が甘くねだる。俺は、さんざ吸って少し腫れている唇を吸い上げ、口腔を一通り舌でねぶった。足早にシンの舌を一度だけからめとり、すぐに離れた。
 達してもシンの中は緩もうとしなかった。苛み続けられた俺の方が、あと幾ばくも堪えられそうになく、余裕がないというわけだ。
 熱を持つのは必ずしも俺ではない。シンの体内は焼かれるかと思うほどの灼熱だ。結合し、熱に浮かされると、何もかもがどうでもよくなる。その刹那的な悦楽が精神を犯す、にじり寄る危惧までもが悦楽。
 シンはこの交わりを人を駄目にするクスリのようだと表現するが、俺にとってもそのようだった。
 シンの血が、熱い。交わりを成すごとにそう感じる。
「欲しいものを、欲しいと言え…シン」
 つぶやきながら、両手をシンの頭の両脇に突き、膝立ちになって、体勢を整える。
 見下ろしたシンは、ぼんやりと俺を見つめ返したが、瞳を卑猥にけぶらせていた。
「おれ…おれ…、レイとひとつになりたい…」
 切なげに吐息し、俺の首に腕を巻き付ける。
「…だから、さっきからずっと、俺とおまえ、ひとつに繋がったままだ」
 シンが首を傾いだ。
「ちが…そうじゃない……いっしょくたに、なりたい…」
「シン……」
 掠めるようなシンの口づけの洗礼を受けた。腰に、シンの両足が絡みつく、
 求める相手と同化したいという、究極的な欲求が願望として心理の深層に巣くうのは、裏を返せば最大の自己愛なのではないかと思う。
 俺にもそんな衝動がないわけではない。
 シンとひとつに溶け合えたなら、どんな気分がするのだろう。どんな感覚が得られるのだろう。それが可能な場所とは、いったい何処だろう…
「シン、シン…!」
 理性を手放して、腰を突き上げ、シンの中をえぐり、どろどろに掻き回す。
「あん、あう、レイぃ…!」
 シンの目には俺、俺の目にはシンだけが映る。
 今、この時、世界にはたった二人だけが存在していた。
 それ以外には何もない。存在しない。
 交わりを成すことで生まれるそれは、小さくとも、確かに俺が見つけた『新しい世界』に違いなかった。


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posted by 百武 晶 at 23:11| Comment(0) | TrackBack(0) | SEED-D小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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