2005年10月17日

ミネルバ逃げ水「シン・アスカにおやつをあげるぞ!」

思いつきで、軽い気持ちで書き始めました。結局、途中からいつもと変わらない全力投球っぷりで書くハメとなりましたが。
今までに書いたのとは、取り組み方が違うのですが、読む方には関係ないですね…
超再放送の書き取りにアホみたいに時間がかかって、小説を書く時間まで潰れてしまい、ストレス発散のためにすぐ終わるだろうと書き始めたら、終わらなかっただけの話です。
結果的に、スプラッターパンクと同じくらいの長さになったのかなー。うへー。
そのスプラッターと世界観を共有するのか…な…。
ノープランで、書きながら先を考えるという暴挙に出、書けたら続きをアップする、そんな生意気な真似をしてしまいました。でも、書き上げられました。良かった。

レイシンなんだけど、やおいかどうかっていったら違うような気がする…
こんなの誰も書かないだろうと。読んで楽しいのかもわかんないし。
内輪から見たシンと、外側から見たシンと。ミネルバの中の赤服がどう見えるかという。



      ミネルバ逃げ水「シン・アスカにおやつをあげるぞ!」


「また、食べてるのか」
 レイが、ベッドの上で物を食べているシンを苦々しげに見ていた。
「うん。だって、最近出歩くと、だいたい毎日誰かがなんかくれるんだよ」
 シンの片手には小さなパッケージがあった。女子が好んで買うような、食べきりサイズのメイプルクッキーだ。サクサクと歯ざわりがよく、程よい甘さだが、当然食べるとくずが散らばる。
「誰が、何をおまえに寄越すというんだ」
「女子が。お菓子をくれるよ。どういうわけか」
 うちわけが知りたきゃー、そこにある箱を見ろとシンはデスク下を指差した。
「誰にもらったかは自慢じゃないが、覚えてない」
 シンは人の顔も名前すらも覚えない。そういうヤツだ。
 レイは、律儀にもその箱の中身を検分する。30センチ四方のダンボール箱に、チョコだ、クッキーだ、キャラメルだ何だが、洒落たデザインのパッケージに包まれて、10袋余り放り込まれてある。
 毎日あれだけ食っていて、それでもまだこれだけのストックが? ということは、どんなペースで受け取っているのか? というか、この怪現象はなんだ?
 ロビー君の呪いなのか。
 シンは男には煙たがられ、恐れられ、女からはすこぶる評判が悪いのだ。
 シンを呪う会があったのよ、ううん、今もあるのよね、とメイリンが言っていた。
 レイには「レイ様を遠くからお見守りする会」が、ルナマリアには「ルナお姉さまをお慕いする会」があったというが、シンは「シン・アスカを呪う会」。女子の考えることは意味がわからない。
「おいそれと、他人から物を受け取るな」
「だって、くれるっていうんだもん。もらえるもんはもらうよ。庶民のさもしいさがだよ、貴公子にはわかんないだろーけど」
「俺は貴公子ではない」
 いまさらのことを、レイはやはり律儀に訂正した。
「レイも食べる?」
「いらない」
「つれない。こういう時は一個でも食べとくもんだよ」
「口の中が甘くなる。いやだ」
「あっそぉ」
 シンはばりばりとクッキーを貪り食った。
「…そのベッドに散らばったクズを、今日こそはお前が自分の手で片すんだろうな? 俺を当てにするな。俺の知ったことではないからな」
 レイはベッドを横切ってバスルームへ向かいざま、シンに冷たく言い放った。
「ふーん、べつにいいけどさー」
 食べるだけ食べたシンがしたことは。マットレスからシーツを剥がし、クズを床へ振り落とした。そして何事もなかったようにシーツをメイキングしなおし、キレイな寝床の確保に成功する。
「………」
 風呂から上がったレイは、床の惨状を見て、愕然となっていた。
 シンがなにをしたのか思い至り、蹴り倒してやろうかと思ったが、あいにくシンは既にバスルームへ逃げたあとだった。
 頭を抱え、嘆息する貴公子。
 結局、クッキーその他の食べかすは、レイが片付けることになった。予定調和だった。


「こいつ、まーた食ってんよ」
 レストエリアに、あきれたような感心したようなヴィーノの声があった。
 シンと背中合わせに座っていたヨウランが、「紙」のグラビアから顔を上げた。
「シンちゃん、今度はなに食ってんの?」
「濡れ餅。うまいよ。さっきそこでもらった」
 シンは濡れ餅の袋をヴィーノに回し、ヴィーノがヨウランにまた回した。
「濡れ濡れ」
「エロいんだよ、おめーは」
 ヴィーノが、濡れ餅などという、未知の物体を口に入れ、おそるおそる咀嚼しつつも、しっかりシンの発言に抗議する。
「こら。シンはそういうこと言ったらいけません。初めて食う食感だけど、甘辛くてうまいね、なかなか」
 シンに袋を返しながら、ヨウランはまともな感想を述べた。眺めているグラビアは際どいテーマのものだったが。
「オレ、この頃、食うものに困らない。夢のような生活だ」
「ぜったい、なんかの罠だぜ。シンが女子にモテるなんて、ありえねーし。裏でとてつもない陰謀が動いてるにちがいねえよ! こえー!!」
 ヴィーノはおたおたと、小動物のように右往左往した。
「んなアホな。まぁ、なんかもらえるのはうれしーじゃないの。あ〜俺もなんか欲しいね」
「ヨウランはなにが欲しいの、たとえば」
「んー、俺は愛が欲しいな、愛が」
「アホくさっ!!」
 間髪を入れず、ヴィーノが絶叫した。
「愛? オレはいらないな、そういうの。オレは、やっぱ食いもんか、そーでなかったら、インパルスの新しい兵装が欲しいなぁ」
「あんだけバリエーションが揃ってるのに。これ以上なにをどうする気だよ。贅沢なやつ」
 ヴィーノが、楽しそうに今後欲しい兵装に思いをはせているシンを見て、うんざりした。
 そして、こう言った。
「オレが思うに、女子がシンにおやつを与え始めたのはさ、密かにこういう計画が進行しているからだよ。お前はレイレイに飼い慣らされたペットみたいなもんだけど、女子たちはお前をミネルバのペットとして餌付けするつもりなんだっ! シン・アスカみんなのペット化計画だ!」
「ぶははは…!」
「オレは、レイのペットじゃねーよっ!」
 シンが、ヴィーノの腰を蹴り付けた。きゃーん、と情けない声を上げてヴィーノが床に転がる。
 レイの真似。
 ヴィーノは、「レイレイ」と恐れ多くもレイ本人に向かって言って、その都度レイから足蹴にされているのだった。


「あんた、またなんか食べてんの?」
 ベンダースペースへ入ってくるなり、シンの姿を見とめたルナマリアが言った。
「んー?」
 シンが、顔だけルナを向き直る。板状のビーフジャーキーを口にくわえてしがんでいるようだ。
「あんたもなんか飲む?」
「うん」
「なにがいいの」
 自販機の前に立ったルナマリアが尋ねると、シンは炭酸がきいてればなんでも、と返答した。
「あ、そ」
 ルナは緑茶飲料と、適当な炭酸飲料を選択し、後者の方をシンに手渡した。
 見上げてそれを受け取る間際、シンが表情を緩める。
「さんきゅー、ルナ」
 刹那のものではあるが、笑顔。シンがルナマリアに気を許している証拠だった。
「それさぁ。そのジャーキーってチョイスはともかく、あんたがこの所よく手に持ってるお菓子さ。けっこー名の知れた専門店のだったりするじゃない。安かないし。どっから手に入れてるワケ? メイとかあのへん?」
 シンの隣に腰を下ろしたルナが、早速シンの身辺で発生した異常事態に探りをいれた。
「ルナ。オレさ、今が人生最大のモテ期かも知れない。どうしよう」
 さして焦っても、どうしようとも思ってなさげのくせに、シンはそんなことをつぶやいた。
「は?」
「艦内の至るところで、女が寄ってきて、オレにお菓子を寄越すんだ」
「なんですって!」
「時と場所を問わずだ。老いも若きもかかわらずだ。日々お菓子が箱に増えていく。さすがにレイも気付いた。どうしよう。嫉妬したレイが殺人に走ったりしたら」
 こっちの「どうしよう」はいくらか深刻な響きがあった。
 オレ、男にしかモテないはずだったのに、意味がわからん。とシンはぼやいた。
「あんたじゃあるまいし、レイに限ってそんなキレた真似しないわよ」
「そうかな?」
「そうよ」
「…つまんねー」
 悪態をついたシンのこめかみに、ルナは制裁の鉄拳を軽く食い込ませた。
「でもね、その時と場所を問わずってのは正しくないわよ。平民を恐怖で支配するミネルバの魔王にあえて接触を図ろうとするなんて、よっぽどの度胸と目的意識がなければ出来ないことよ。ゆえにしっかりタイミングを見計らって実行されているのよ、それは」
「…そういや、受け取るときって、腹が減ってたり、ぼーっとしてたり、気分がいいときだったりするかもな」
「ほら、みなさい」
 ルナは。シンには変なムシはつかないはずと思っていたのだ。
 噂が作り上げた悪名高いシン・アスカのイメージを、漏れなく人は信じているし。シン自身がそれを利用して、他人が寄り付かないように、悪評が上がるような態度を進んで取り、行動しているからだ。
 それよりも何よりも、シンは他人というものを拒絶している。その意識は空気を介して周囲にありありと伝わり、人を遠ざける一番の要因になっていた。
「負のオーラを撒き散らしてる状態のあんたには、誰も近寄れないんだから」
「ふーん。ルナも?」
「あたしだって無理。レイだってそういう時は避けてるわよ」
「レイもなのか。なんで?」
「あんたの負に引っ張られて滅びるのが嫌だからよ」
「つめてぇ。いっしょに地獄に落ちてくれないんだ、あいつ」
「バカね。レイまで滅びたら、自壊しようとするあんたを助けられないでしょうが」
「あ、そっか。レイ、あたまいい」
 しかし、魔王を演じるシンも人である。人であるからには隙というものがどうしたって生まれてしまう。
 そこを突いてきたか。女子ども。シンの生態が研究されているのかも知れない。
 由々しき事態だ。
「シンったら、物につられやすい性質にしても、お菓子をくれるなら誰でもいいっての? 行儀が悪いのね。思ったよりレイの調教は成果がないのかしら。ガッカリだわ!」
 ルナお決まりの文句、ガッカリだわ。ことあるごとにシンやレイに対して言う。
「なにが? なんかダメなのか」
「あんたの、陽電子リフレクター並みの対ヒト防御はどこへ? その、お菓子を寄越す女どもにへらへらしてんじゃないでしょうね。しぱしぱ尻尾ふってんじゃないでしょうね?」
「してねーよ。くれるっていうから貰ってるまでだ。ギブアンドテイクじゃないぞ、テイクアンドテイクだ。需要、需要だ」
「…まーた、バカなことを」
「バカってゆーな! だって、腹がちょっとでも空いてると、もらって損はねえな、って思うんだもん。こんなだったら、アカデミーの頃にみんなくれりゃー良かったのにって。あんとき、金がなくってどんだけオレが腹をすかせていたか。今はもう、軍人の稼ぎでじゅうぶん事足りて食えてるのにさ」
 ルナマリアはその弱みを足がかりに、だからこそ奇跡的にシンの餌付けに成功したのだが…
 今になって、自分以外にシンに餌をやろとする者がいるというのは、はっきりいって自分の領域を侵されるようなものだ。全くもっておもしろくない。
「シン、まちがってもだれかれ構わず機嫌よく尻尾を振るようなあんたになっちゃいけないのよ。噛み付いてこそのあんたなのよ。それが最早あんたの価値なのよ!」
「はぁー? そうなの? オレはオレだよ、どっちみちオレ以外にはならないよ」
 首をかしげつつも、シンはきっぱりそう言い捨てた。
「それにしても、いったいなんなのかしら。残念ながら、あんたの人生一度きりのモテ期でないことは確かだわ」
 ありえない、とルナまでもがそこは否定した。
「あんたに熱を上げるのは、いつも男なのよ。それも、人格形成に難のある」
 レイが聞いたら、気を落とす余り荊の城に篭りそうだ。
「もういいよ、それは。ヴィーノが、ミネルバの女がオレの餌付けに乗り出したのは裏で陰謀が動いてるからだってさ。それは、オレをみんなのペットにする計画だっていってた」
 ぐしゃり。ルナが、緑茶を飲み干した後の容器を、片手で握りつぶした音だ。
「うわ」
 引く、シン。
「まぁね…それくらいの陰謀は存在するかもねぇ? ペット化計画ね…なにが真たる目的なのか、解せないわ。実態解明してシメてやろうかしら」
「だ、だれを…?」
 よくわからないが、ルナが怖い。シンの声は、気の抜けた炭酸飲料のようだった。
 ペット化計画のほうはともかく、シン・アスカの実体が解明されるようなことがあってはならない。
 シンはミネルバのエース。ミネルバに君臨する恐怖の魔王でいいのだ。
 レイが王子だ貴公子だともてはやされようとも、実際は王子でもなんでもなく、完璧な人間でもないように、シンにだって噂とは程遠い素顔というものがある。
 まぁ、つまるところ、ルナマリアはこう思っているのだが。
 シンを餌付けして許されるのは、あたしと、妹連中だけなのよ! と。

                      *

 …それは、誰が最初にやったことか、明らかではなく、ミネルバの七不思議に数えられてもよさそうだった。ほとんど自然発生的に起こり、徐々に広がって、ちょっとしたブームの兆しを見せ始めているという。
 シン・アスカにおやつをあげる。
 ミネルバの女性乗組員の間で流行っているというのだ、そんなことが。
 おやつをやったから、だからどうというわけでもなく、シン・アスカが受け取りさえすれば目的は達成される。
 ゲーム感覚というには、失敗したときのリスクが高すぎるが、一種のチャレンジのようなものだった。
 ターゲットがあのシン・アスカなのだ。
 危険人物と目され、近寄り難いことこの上ない、あの。
 意に沿わないことがあれば、上官にも殴りかかり、暴れたおすという。早速、新任の隊長を殴ったらしいし、身の程知らずが、レイ・ザ・バレルにも平気で掴みかかるという話もある。
 それは許せない。そう、その美しいレイ・ザ・バレルの純潔を力ずくで奪い去ったとか。ひどい、なんて酷いヤツなんだ、横暴なんだ、シン・アスカ。
 と、悪いイメージばかりが先行するが、いちおう彼もエリートで、その証の赤服をまとっている。良いことを強いていえば、そのずば抜けた戦闘能力を発揮して、エースパイロットの座を揺るぎないものにしていることぐらいか。
 そんな、シン・アスカがお菓子の袋をうっかり受け取るとしたら、なんかおもしろくないか? その場面を見てみたい、成功するのかどうかやってみたいかも知れない。
 なにもかもを撥ね付けそうなエースが、お菓子を受け入れるかどうか、実験だ。

 気をつけるのは、ルナマリア・ホークに見つからないようにすることだ。
 要注意事項だった。
 シン・アスカの同僚で、随分と親しい仲なのは周知の事実だ。親密な関係ではなさそうだが、なにかにつけて一緒にいる姿を目撃されている。
 彼女はシン・アスカのことを自分の所有物かなにかのように思っているはずだ。手出しをしたら、きっと目くじらを立てるだけではすまない。
 そういう、恋愛感情に限りなく近く、果てしなく遠い複雑な感情の存在を、同性はすぐに嗅ぎ付ける。
 事情がある。あれは刺激してはいけない。

                      *

 シン・アスカにおやつをあげるのが流行っているという。
 本当に、受け取るのだろうか。
 それって、同じ赤服のレイ・ザ・バレルに挨拶をして、微笑み返してもらうのと、どっちが難易度が高いかといったところじゃないか?
 少女はオペレーターのサブ要員だった。戦闘下でMSの発進ガイダンスを行う、花形のメイリン・ホークとは違って、地味である。
 明るい栗色の髪は長く、毛先に近いあたりで二つに結ってある。標準より大きいとされる目が顔の中心線より下にはみ出す低い位置にあるせいか、鼻が低いせいなのか、童顔だ。背も低い。チビだ。必ずといっていいほど、実年齢より幼く見られた。
 ブリッジで、艦長や副長の姿を目にすることはあっても、赤服を拝める機会というのは意外にない。やはり、同世代のトップエリートは憧れの的だ。
 艦長の髪型がどういう仕組みなのかとか、副長が勤務中に何回「えぇっ!」と驚くかより、赤服の生態の方がよっぽど興味をそそられる。
 みんな、シン・アスカを魔王だとか悪魔だとか言うけれど。
 戦闘をモニターしていると、ため息が出る。
 なんか、自由自在だ。彼は。
 コアスプレンダーが空に飛び出して、高いところを駆ける様は、自由そのもの。軽やかに、舞っているかのよう。
 インパルスはどうしてああも、被弾せずに光線の雨を抜けて、誰より多くの敵機を撃ち落せるのだろう。
 シン・アスカは力を自在に操り、自由に飛んでいる。
 そういうふうに、見えた。
 彼は謎が多いと思う。シン・アスカって何者だろう? 人を遠ざけるような悪評の噂と、おもしろおかしく尾ひれのついた悪の武勇伝なら、語りつくせないほどあるが、正確な人となりを示す情報が何一つないのだ。
 もしかしたら、レイ・ザ・バレルより彼の方が謎なんじゃないか?
 気になる、気になるぞ。シン・アスカ。
 「メイリン艦長(野望)のひみつ日記」に、シン・アスカの激写写真もたまに載っているけど、これぞという一枚はアップされていないに違いないのだ。本質を収めたような、素顔の垣間見えるようなものが。
 ちなみに、メイリンのウェブログは会員制の有料サイトである。月額いくら払ってでも、見たいものは見たいのだ。できれば実物が見たいけど、艦内の雰囲気からして、あまり大きな声でシン・アスカに好意的な興味があるとはいえないのだった。
 その、メイリン・ホークですらも激写したことがないだろう場面を、少女は偶然目撃したことがある。
 人の気配が引いた夜も深い通路の奥で、レイ・ザ・バレルとシン・アスカが深刻な様子でなにかを話していたのだ。
 というか、ほとんど口論だ。
 ただならぬ空気だったので、引き返そうかと思ったのだが、赤服二人という豪華な面子がおいしすぎて、その場に留まり、盗み見をしてしまった。
 あいにく、声が届く距離ではなかった。話の内容はさっぱりだ。たまに、シン・アスカの興奮した怒鳴り声がわかるくらい。
「もう、オレいやなんだ、もういいんだ!」
 なにが? なにか嫌で、もういいのか?
 真剣な表情で説得しているように見えるレイ・ザ・バレルを、シン・アスカは突き飛ばそうとして、やりそこねた挙句、殴りかかって行った。
 なんとなく、彼は泣いているような感じだ。で、その場を去りたいのだが、足止めする相手を振り切れずに、抵抗しているのかも知れない。
 レイ・ザ・バレルのほうは冷静に、攻撃をかわし、懸命に説得を続けようとしている。
 うおお? これは、あれですか、世に言う修羅場ですか?
 二人の赤服が、仲が悪いという噂は本当だったのか…なんとなくガッカリ。うん? でも、仲の悪いライバルが、こんな深夜に殴りあいのケンカをするもんか?
 えー? どうなんの、どうなんの? これー!?
 などと疑問符を浮かべている間に、シン・アスカは臨界点までヒートアップ、このままだと殺し合いが開始されるのではないかと思われたが、事態は物凄い方法で決着した。
 なにがどうなってそうなったのか、知る術はない。
 張り詰め、殺伐とした場が一転。
 ふたりは肉体を密着させていた。ぴったりと一分の隙間もないほどに。身長も体格も同じくらいで、そうやってくっつくと、まるで一つの生きもののようだった。
 まぁ、それは絵に描いたような美しい光景で。このまま夢の世界に行けそうな感じだった。片道切符でけっこう。現世に帰ってこれなくても無問題。
 手持ちの携帯端末のカメラ機能でデータに残すべきかとも考えたが、その時は出来うる限り己の網膜に記録させる方が正解だと判断した。というか、刻々と進行する状況から目が離せなったのだ。
 アワアワワ。すっごいものを目撃してしまった。もう、口から人生最大の絶叫があがるのを両手で封じ込めるのに必死だった。この世のものとは思えない雰囲気に当てられて、全身の血が沸点を越えた。血管がその突発的な勢いに耐え切れず、破裂しそうだ。
 ずるずると、背を壁に預け、その場にへたり込んでしまった。動けそうにない。
 脳内ハードディスクは、視覚から送られた映像をきっちり保存したろうか。処理落ちなく、鮮明画像でいつでも再生可能になっているのか。
 これは、今後なにが起ころうと永久保存版の極秘映像になるに違いない。
 この脳内に記録された貴重映像を、現像できるもんなら現像して、みんなに見せて回りたいものだ。不可能だけど。自慢したいような、秘密にしておきたいような。
 あれね? 男同士でも、男女となんら変わりなく出来てしまうのね。
 衝撃だ。
 ミネルバに君臨する魔王と、ザフトきっての貴公子が出来ていたなんて。
 どこが仲が悪いって? 超仲良しではないか。あの二人。
 …ますます、シン・アスカが気になるじゃないですか。その実体とやらが。なんてったって、噂はアテにならないんだから。


 ブツは用意した。
 滅多に口にしない、贈答用のお高いやつ。前回寄港した折に買っておいたのだ。変わった手触りのする特殊加工の紙のパッケージには、無意味にリボンなんかが通してある。男の子にあげるにしては、かわいすぎやしませんか。まぁいいや。
 今まで食べた中で三本の指に入るお味なのだ、きっとこれは誰が食べてもおいしいはずだ。一般人の最大公約数をここは信じよう。シン・アスカの味覚の判断基準が標準から外れていたら、アウトだが。
 赤服がどのようなタイムスケジュールに従って行動しているのか、明らかではない。おそらくは何らかの戦闘訓練を一日中行っているのだろう。戦うことが、彼らの仕事だからだ。
 広い艦内のいつ、どこに出没するのか、わからないんである。
 ルナマリア・ホークのパンチラが確実に見られるポイントがあるのは有名だ。
 某所では、レイ・ザ・バレルの通りすがる姿を高確率で拝めるらしい。その日が人生で最も運勢のいい日であれば、挨拶を返してもらえるかも知れないという。
 しかし、肝心のシン・アスカはどこに現れるのか、噂にその情報が一文字もない。
 仕方ない。まずは、自力で探すことから始まった。
 で、自分の足で稼いだ綿密な調査の甲斐あって、足取りは掴んだ。しばらくの間、アイドルの追っかけというか、犯人を追跡する私立探偵みたいだった。
 あとは決断する勇気と、タイミングだ。
 そのタイミングが案外難しい。シン・アスカにはなかなか近寄れない。噂どおりの、あの触れ難い空気は濃厚で、並々ならぬ威圧感に怖気づいてしまうのだ。一度目はそれに玉砕され、二度目はべったりと張り付いたルナマリア・ホークが邪魔で敗退した。
 三度目の正直。
 今日こそは渡す、渡すぞ。ていとしては、日頃の労をねぎらう意味と、戦績を褒め称えるでいいよな。うまくいけば、会話できるかもしれん。うわ、それはおいしすぎる。どうしよう。
 シン・アスカにおやつあげるぞ!

 その日、少女は完全オフだった。貴重な休息を丸々捧げ、シン・アスカの後を尾行しておやつをあげるタイミングを計っていた。
 シン・アスカが通路を往くと、おもしろいように人が引く。彼に気付くと、みな、そそくさく道をあけるのだ。そこを、前傾姿勢の早足でさっさと抜けていく。見事な光景だ。圧巻だ。
 レイ・ザ・バレルに、進んで道を譲るのとは、その行動原理がまったく違った。
 みんな、シン・アスカが怖いのだ。いろんな意味で。がなられたくも、蹴られたくもないのだ。要するに、面倒に巻き込まれたくないのである。
 細く、戦士というには頼りない背中を眺めながら、人が引いたままの通路を追いかける。
 シン・アスカは部屋に戻ろうとしている。自室のあるブロックに近づくにつれ、オーラは弱まり、歩く速度まで鈍くなった。ブロックにたどり着く頃には、なにやら様子がおかしくなっていた。
 やば。尾行に気付かれたのか?
 いや、警戒している気配はない。たんに、ボーーっとしながら歩いているだけのようだ。まぎらわしい。
 ベンダースペースの横を抜け、突き当りのT字路を…
 え、ちょ、まさか…!
 鈍い音がした。
 シン・アスカは左にも右にも曲がらずに、真っ直ぐ進んで、壁に額から激突した。コントよろしくその場に崩れ落ちる。
 あんたは、ベタな少女マンガの登場人物かーー!
 少女は身を隠すことも忘れて、通路の真ん中に躍り出た。吹くな、笑うな、ウケるな。必死に衝動を堪えていると、辺りをキョロキョロと見回すシン・アスカと目が合った。
「………」
 シン・アスカのばつの悪そうな顔が、さっと赤くなった。
 うっわ。かわいい。
 彼からすれば、バカの現場を見られたという最悪の瞬間だろう。しかし、渡すタイミングとしては、どう転ぶか予測不可能だが、今をおいて他にない。
 少女は、地べたに座り込んだままのシン・アスカの元へ駆け寄った。
「あの、これ、どうぞ! 毎日ご苦労さまっていうお礼の気持ちで他意は特にないからっ」
 それだけ一気に言って、両手でお菓子を差し出した。
 鈴を転がしたような、と言っては語弊ありだが、可愛らしい響きのなかにも品が備わっている美声だと他人から褒めてもらえるこの声。そりゃ、オペレーターを志すくらいだから、それなりに自負してはいる。
 イテテ、とぶつけた額をさすっていたシン・アスカは、見知らぬ少女に袋を突きつけられて、え?というような表情で見上げた。
 あーあ。おでこ赤くなってるよ。色が白いから、発色のコントラストがくっきりで、よけいに痛そうだ。そう、彼は肌の色が真っ白なのだ。粉をはたいたような肌とはこのことを言うのだろう。昨今の美白ブームも真っ青な、生まれついての色白だ。
 見上げる瞳は大きく、丸く、目じりはキッと上がっているけど、ルビーのように真っ赤で瞬きをすると零れ落ちそうだ。
 間近でよく見ると、まだあどけない顔。ああ、眉間のしわがないからか。いつも、不機嫌なしかめっ面して歩いているものな。
 プラントじゃ、黒髪はめずらしい。ほとんど見ない。遠目にも、その黒い髪が手入れされていないだろうことは、容易に想像できたが、やはり、寝癖などいっさい直していない。後ろ、ハネまくってるよ。でも、傷んでいるわけではなさそう。艶々で、触ったら、意表を突いて柔らかいかも知れない。
「あっ!」
 シン・アスカが突然叫んだ。
「えぇっ!?」
 少女は反射的に肩をビクつかせた。
 なんだ、なにに食いついたんだ。お菓子? いや、お菓子なんか見てない。どっちかいうと、凝視されてるのはわたしの顔だ。
「アンタ、名前は?!」
 すごい剣幕だった。なにかに縋りつこうとするように、身を乗り出してくるから、気圧されて一歩後ずさってしまった。
 まさかそう来るとは思っていなかったが、問われたので素直に名乗った。
「     」
 その途端、シン・アスカはがくりと音がしそうな勢いで肩を落とした。激しく気落ちしたようだ。
「えぇーと? どのような答えをご所望で…?」
 遠慮がちに、答えたくないなら答えなくてもいいですよ、みたいなニュアンスを込めて尋ねてみると、間があってから、シン・アスカがぼそりと床に向かってつぶやいた。
「…オレの死んだ妹に似てたから。生まれ変わった妹が、オレに会いに来てくれたのかと思ったのに。
ひでぇ。期待して損した」
 えー、なにいってんの?
 そもそも意味がわからない。道理の通らない願望ではないか、それは。
 わたしはあなたの死んでしまった妹に似てるんですか。そうですか。まぁ、なんてつくりごとのように奇跡めいた出会いだこと。
 少なくともシン・アスカは年下で、その妹に似ていると言われると複雑である。しかも死人だ。
「わたし、あなたより長く生きているし、死んだこともない。前世の記憶もないよ」
 妹ではないと、そのものずばりと言うのは可哀想に思え、暗に、そう言った。
「はは…声まで似てら……」
 力なく笑うシン・アスカの横顔が、あんまり切ないので、傷つけてしまったような気分になる。
 ああ、おやつをあげに来ただけなのに。なんでこんなことに。この空気をどうやって回復させろというのか。
「…見たろ」
 渡りに船、シン・アスカの不機嫌な声にこの時ばかりは飛びついた。
「はい?」
「オレがすっ転ぶとこ」
「見た…いやいや、見てない、なにも見てないから!」
「いいよ、そういうの。よけー恥かしいじゃんか」
 拗ねたようにそっぽを向きながら、シン・アスカはその場に立ち上がった。
 わぁ。イメージよりずっと背が高い。痩身がそう思わせるのだろう。170センチはありそうだ。希望身長まで12センチ足りていない少女は、その肩口までしか届かなかった。
 赤服の品位を三割落としていると不評の、開け放った襟元からインナーがのぞいている。目の前に来るのはちょうどそのへんで、顔を見て話すには多少見上げる必要があった。
「それ、オレにくれんの? おいしいの?」
 と、指摘されてハタと気がついた。想定外のハプニングに、本来の目的を忘れるとこだった。
「あっ、これ、どうぞ! プチマカロン。三種類の味があって、外がふわふわさくさくで、中のクリームが程よくっておいしいから。たぶん」
 一度は引っ込めたお菓子の袋を、改めて差し出した。緊張で手が震える。アホか、わたしは。恋する乙女じゃあるまいし。
 ふーん、と、シン・アスカがそれを受け取った。ごく自然に。当たり前のように。この子、手まで真っ白だ。
 うわー。すっごい、感動的だ。お菓子が受け入れられた。別に、自分自身が彼に受け入れられたわけでもないのに、拒絶されなかったというだけで、とてつもなく心が躍った。
 息をいっぱいに吸い込んで、胸がいっぱいなのを誤魔化して、お菓子の袋を眺めているシン・アスカを見上げる。
「へー、おいしーんだ、これ。女っていいよね、なんかやたら美味しいお菓子いっぱい持っててさ。DNAが砂糖菓子で出来てるってホントかもな。オレには構造がよくわかんないけど」
 へら…、と目もとを緩め、口の端を緩め、シン・アスカが笑った。
 笑った。
 こうして向かい合って、会話を成立させているだけで、日常のボーダーラインをとっくに飛びこえ、非日常に足を突っ込んだエラー状態だ。選び抜かれたエリートの赤服は、雲の上の存在で、感覚的には手の届かないアイドルと似ている。ましてや、シン・アスカはその中でも輪をかけて近づけない、遠くに見える陽炎のようなものだった。それが、笑顔まで見せてもらえた。
 超、ありえないくらい、嬉しいはずなのに。
 なんでだろう。この子の笑顔、なんでこんなに悲しいのだろう?
 すぐにでも駆け寄って、ぎゅっと抱きしめてあげたくなるような、そんな衝動に駆られたけれど、それは自分の役目ではないと、言い聞かせる。
 いつかの、深夜の通路で目撃した光景がふいに蘇った。
 …たぶんレイ・ザ・バレルは、この笑ってるのに悲しい彼を放って置けないのだ。見過ごせないのだ。怒鳴られ、噛みつかれ、殴りかかられようとも、抱きしめてやらねばならないことを、知っているのだ。
 彼らのことは何一つわからないが、そう思った。
 ただの勘で。
 緑の制服の、タイトスカートを両手で握り締めた。
「あの…あなた、自由ですか?」
 ほとんど無意識に、しかし、すらすらと口走っていた。
 勝手ながら、自由に決まってるだろ、という答えが欲しくて。
 ぶしつけな、しかも漠然とした問いに対して、シン・アスカは険しい顔になった。眉をひそめ、こちらを睨む。
「…そう見えんの?」
 大きくうなづいてみせると、シン・アスカはますます眉間のしわを深くし、うーんと唸りはじめた。睨んだのは、気分を害したというアピールではなく、物を考えるときのくせと見た。考えるのと連動して眉を寄せるなど、コミュニケーションの妨げにしかならないような気がする。
「ほんとお前らってさ、人を、望みもしないイメージに次から次とハメてくれるよな」
「どうも申し訳ない…」
 ノリで、小さく頭を下げた。
「オレさ、テストパイロットを経て、この手でインパルスを勝ち取ったわけ」
「はぁ…」
 そうなのか。能力の著しく秀でた成績優秀者は、ホイって最新鋭のMSと配属先を与えられるのかと思っていた。
「見えない? この背中に、鋼鉄の翼」
 シン・アスカは背を向けて、悪戯っぽく笑って言った。
 その笑みは悲しくなんかなかった。悪巧みを閃いたコドモのそれ。なんていうか、くぎつけである。
 シン・アスカに鋼鉄の翼。
 似合いすぎ、似合いすぎだ。
 ミネルバの魔王なんて二つ名より、断然そっちの方がコピーとしてイカすじゃないか。
「じゃあ、オレ行くよ」
 これ、アリガトとお菓子の袋を振りながら、そのままシン・アスカは歩き出した。
 ああ。シン・アスカが行ってしまう。
 遠ざかる背中に、鋼鉄の翼が見えないものかと、目を凝らす。
 少女の念願は叶って、目的は成就された。
 魔王とは、世を忍ぶ仮の姿だった。おそらく彼は、年相応の少年。多少、言動が変わっているようではあるが、かわいらしい男の子なのだ。
 ただ、人より背負っている翼が重いだけ。
 もっと、見ていたい。話していたい。知りたい。
 隠せない、湧き上がる、欲望。
 いかん、いかん。
 もしや、持っていかれたか?
 根こそぎ、この心を。



 シンにお菓子を寄越す女子は後を絶たず、ダンボール箱からストックが消え去る瞬間はついぞ訪れなかった。
 どうやらブームは一過性のものではなく、文化として定着した模様である。
 たまに、レイが言い表しようのない複雑な表情で、ダンボール箱の中身を凝視している。シンはその姿を横目で見るのが愉快でたまらない。
 あの、マカロンとかいうの、うまかったなー。
 また、くんないかなー。
 えーと、あの…名前…なんつったっけ。確かに聞いたはずなのに、思い出せない。忘れた。ま、いっか。
 マユに似てたんだよな。成長したら、きっとあんな感じなんだ。マユ。
 さびしくなったら、たまにこっそり見に行こう。
 それくらいなら、ま、いいだろう。ちょっとした心の慰みに。
「うん? なに、レイ」
 シンは、また懲りもせずに、ベッドの上に寝そべってネットをしながらお菓子をつまんでいたのだが、デスクのPCで作業をしていたレイが、ベッドサイドに立ちはだかったのに気付いて、顔を上げた。
「ルナマリアに聞いた。おまえ、ミネルバのペットになるらしいな」
「はあ?! そ、そんな予定ねーけど?」
 シンは、食べかけのキューブ型ウェハースを取り落とした。
 ルナめ。レイにどう、何を吹き込んだんだ?
「そうか。水面下で着々と企画進行中のようだ。あいつが、早急に対策を練るべきだと俺をせっつくぐらいだからな」
「え、いや、それは」
「あの箱一杯の包みはおまえを手なずけるための餌というわけか。納得がいくな」
 あ。雰囲気がおかしい。経験からいって、この流れはやばい予感がする。
 レイは無表情なのだが、感情がないわけでは決してない。割と、外見に反して男っぽく、気性の激しい一面を隠し持っているのだ。
 常時は平静、理知的でかつ柔和であるが、ひとたび自分の領域を侵されようものなら、ものすごい怒りを示す。
 「ち、ちがうよ、レイ…だからって、オレにお菓子を寄越す女子の首を、一人一人絞めて回ったりしないよね?」
 レイは、万人に優しくはするけれど、女には生き物として興味がない。ルナはああ言っても、やりかねないとシンは思うのだ。
「何の心配だ」
「えっ、その、べつに…」
 この場合、シンが心配すべきなのは、レイが犯罪に走る可能性より、自分の身に及ぶ危険の方である。
「ルナマリアにこうも言われた。俺の調教は失敗ではないのかと」
「だ、誰の?」
「おまえの」
 シンはぶるぶると首を左右に振った。這う這うの体でベッドの上を逃げようとするも、レイに首根っこを掴まれて引き戻される。
「由々しいとはこのことだ。俺が失敗? 心外だ。ありえない。俺に失敗は許されない。修正する。幼少時に隣家の犬のしつけまで完璧にやり遂げた、この俺の誇りに、おまえがバカであるために傷がついても、いいと言うのか」
「それ、違う、話が違う! 論理のすり替えじゃんかっ!」
 首を固定されたまま、ジタバタと手足を動かすシン。
 知らん顔で、話を進行させるレイ。
「そこで俺は、おまえを一からしつけし直すことに決めた。名づけて『シン・アスカ再調教計画』。速やかに、滞りなく再調教を完了する最も効率の良いプランを立てた」
 レイが突きつけた小端末を、シンは受け取らざるを得なかった。
 上体を起こし、ディスプレイを除き見たシンは、その中身に絶句する。
 見ない方が良かった。絶対、良かった。
 そこには調教のプロセス、方法手順が書き記され、それによって得られる成果が仔細に分析されていた。
 デスクに向かって、役立たずの隊長の代わりに報告書の作成をしているのかと思いきや、こんな危なげなものを作りこんでいたのか、こいつ。
「こ、こんなの、オレ、インパルスに乗れなくなる。っていうか、腰が砕ける。死ぬよ!」
 と、絶叫して訴えてみたが、暖簾に腕押し。ぬかに釘。
「そうだな。たまには、そういう誠意らしきものを見せてみろ。腹上死か。愛の形としては究極だな」
 レイの美しい指が、柔らかな微笑を浮かべた口元をなぞった。
 いや、命は一つしかありませんよ、王子…
 レイによく見られる現象だが、発言のえげつなさと、見た目の華麗さの差異が却って卑猥なのだ、エロいのだ。
「怖いこと言ってないで、レイも一緒にお菓子食べようよ、な?」
 慌てふためいて、シンはベッドの上にお菓子の袋を探したが、その間にレイの気配が間近に降りたのを察知し、身を硬くした。
「甘いのは好きじゃない」
 背中一帯にレイの体温。後ろから左に回った手が、シンの耳たぶをくすぐった。
「うひっ」
「が、おまえの口の中に残った甘いのなら、食べてもいい」
 シンは、顎をつかまれ、力尽くでレイを振り向かされた。
「れ、れ、レイ。ちょっと、あの」
 こういうのが不得手なシンの顔は既に火を噴いていた。
 恥かしい、恥かしいから、もう。そういうことを言うな。
 レイは、シンの燃え盛る羞恥心など我関せずで、楽しそうに微笑んでいる。
「シン。今夜といわず、たった今から開始するぞ。再調教計画を」
「えーーー!」
 本気か、と言うヒマもなく、シンの体はレイの重みと一緒にマットレスへ沈没した。

 果たして、シン・アスカに適応されるのはミネルバ女子によるみんなのペット化計画が先か、それともレイによる再調教計画が先か?


  "Should Deny The Divine Destiny Of The Destinies"
    運命の女神が与えたもうた宿命を拒絶すべし


  THE END.


 POSTSCRPT
・最後のレイシン部分、一回、全部消えました。それを書き直した。偉くねー?わたし。
これだからパソコンってこわいですよ。一瞬でパァだもん。短かったので、割と同じ文章を再現できました。意外にできるもんですね。能なしなのに。
・エロに手を出して清い心を捨てた私にはもう怖いもんなんてないんですよ!
・MSが鋼鉄製じゃないというツッコミは野暮だと思います。
・妹に似ている、という対シン攻略としては最強の最終兵器を出してしまいました。まー携帯見つめてるより、そっくりさんを眺めにいったほうが、健全でしょう。携帯は別の存在意義を持って登場すると思います、私の捏造世界では。
・レイは「ロビー君」を引きずっているようだ。トラウマかな?(引っ張るな)
・濡れ餅はコンビニのレジ横とかにあると思います。
・入れ損ねたけど、ヴィーノの欲しいものは「自由」です。肉体的制約からの開放。ネット依存だったんで、この子。
・メイリンのブログの存在は姉もレイシンも知りません。まさか金銭が発生しているとは思ってない。バレたらシメられると思います。こんなメイちゃんでも、アスラン先輩は惚れてくれるのかなぁ。うちのメイリン黒いけど、アスメイは可能なのだろうか。
・目撃されたレイシンの深夜の通路の修羅場はー。シンがキレてたんだろうなー。いいなー。シン、レイにむかって生身シャイニングフィンガーパルマフィオキーナ! しかし、レイくんには空間認識能力が。かわすのはお手の物だ! みたいな。
・暴走するシンが書きたい。
・「  」には好きな名前入れてください。ロープレみたいなノリで。
・ミネルバにいたら、シンにおやつあげたい。観察したい。追っかけたい。それにつきる…
・シンが彼女にお礼をいったり、会話をしたのは、妹に似ていたからです。ただ、それだけでガードが取れました。現金だから。そうじゃなければ、お菓子受け取っても、仏頂面でどうも、っていう程度でしょう。うん。
・なんで私が書くとレイが変態になるんだろう…王子なのに……
・犬好きはゆるぎないな、もう。ていうか、飼ってた犬の名前あるし。死期とかあるし。
・こっそりプロフ欄にメールフォーム設置…

posted by 百武 晶 at 22:56| Comment(2) | TrackBack(0) | ミネルバ逃げ水 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
私もシンにおかしあげたい!!!…と、思いました(笑)続き気になりますよ。お待ちしておりますV
Posted by まき at 2005年10月19日 21:20
うおー、ありがとうございます、まきさん。あと一息です、がんばります。私もシンにおやつあげたいですー
Posted by 百武 at 2005年10月19日 22:06
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