2005年11月06日

SEED-D 50話SS「ルート:ライブ」1


「スプラッタ(後)」とか「メタファー」にブクマ付けちゃってる方、これを機会にトップに付け替えてもらえると、ややこしくなくて助かるんですけども。

これも「ニアデス/メタファー」そして「デス」を踏まえつつ、ということで。
レイシンによるレイシンのためのレイシン解釈で捏造再構成してやった希望的最終回。
「デス」がプランにレイの救いと幸せがあると信じて、そこから動けなかったシンだとすると、これは一歩踏み出すことができたシン。
もういろいろがんばるから。がんばるからこの子。

長いので、4回分けです。
とりあえず16禁です。良い子は読まない。






 メサイア内部の回廊を、俺は駆けていた。
 それこそ祈るような気持ちで。
 アーティフィシャルグラビティの展開が甘くなっているらしく、思うようなスピードでは走れない。床を蹴るごとにうっとおしく体が浮く。
 敵対勢力により完膚無きまでに叩きのめされた要塞は、その機能を完全に停止していた。
人員の退避が完了し、事実上放棄された後だ。内部は不気味なほど静かで、たまに低い唸り声のような地響きが遠くに聞こえる。既に崩壊が始まっているんだ。ここはもう長くない、時間がない。
 そうだ。俺たちは負けた。
 プラントは、ザフトは倒された。
 運命がすべてを支配するという新しい世界は、受胎はしたが、この世に生まれる前に死んでしまった。
 俺は、俺は…これでよかったと思う。
 嘘みたいにさっぱりとした気分だ。
 世界がどういう形で現存しようと、俺はレイと生きていけさえすれば、どっちでも構わなかったんだ。
 けれども、変化も自由も許されないのに、総花的な未来を約束するというデスティニープランと議長の言葉には、拭い去れない不信と反発を感じていたことも事実だ。
 思えば議長も無茶なことを言ったもので。
 レイが話してくれた。前の大戦で終盤の戦局を握ったのは、レイと同一遺伝子を持つ男だったと。そいつは自身の運命を呪いつくし、なによりも憎しんだ世界をデリートしようとしたそうだ。
 議長は世界を破壊こそしなかったものの、イニシャライズすることを試みたわけだ。削除の次は初期化か。頭のいい奴って次々と大層なことを考えるよ。
 その思いつきの都度、戦争起こされたんじゃたまんないけどな。
 照明は落ち、崩れた壁や内装が足場を悪くしている。見通しがつかない中で、俺は床に点々と残された真紅の跡を追っていた。
 レイの血だ。
 メサイアのハンガーに、見るも無残に半壊し、フェイズシフトダウンしたレジェンドが横倒しになっていた。もぬけの殻のコックピットには血だまり。
 同ハンガー内には、損傷具合も大したことがないと見受けられるフリーダムが乗り捨ててあった。パイロットの姿は見当たらない。
 ケガしたの、頭じゃなけりゃいいけど。それが気掛かりではあったが、これはレイが俺に残した道しるべだ。這い出たレイがどこを目指したのか、跡を辿ればそこへ導いてくれるはず。
 レイ、レイ、生きていて。
 お願いだから、はやまるな、俺が行くまで……!

 
 あれから、俺に生きたいと本当の気持ちを言ってから、レイは思い悩んでいるようだった。表情は翳って、苦悩する横顔がはかなげで痛々しかった。
 レイという人格の核を成す、信じて疑わなかった事実や未来の決定事項を、俺が揺るがせたせいだ。
 議長の唱えたデスティニープランが導入されたあとの世界について、それは欲すべき未来なのか、実現させることが果たして正しいのか。
 きっとレイはそういったことを考えている。
 俺に体の具合が優れないのを隠す必要もなくなったレイは、横になる時間が増えていた。あの薬はあんまり効き目がないのかな。レイが放っていた高潔な、人を寄せ付けないオーラは、内面からあふれ出す自信と、確固たる意志や信念が作り上げていたものだったかも知れない。それが今は消え失せ、あるのはただの薄幸な美少年の風情。
 俺は、強くて、だから美しい、そういうレイが好きなのに。
 このときも、部屋に戻るとレイは暗がりでベッドに横になっていた。それを見つけた俺は照明も点けず、枕もとにそっと腰掛ける。レイは背を向けたまま、俺を振り返らなかった。
 レイが弱ってる。俺が慰めなきゃ、とはいっても、俺にしてやれることなんかさしてないのはよくわかってる。
 俺は俺にできることをし、言えることを言うだけ。それしかない。
「レイ…? 眠っているの…?」
 返事はない。たぶん、起きていると思うんだけど。
 レイがしてくれたことを倣って、その頭を撫でながら、しばらく金色の髪を梳いていた。レイの髪はしっとりと細く、そうしていると、清らかな水の流れに指を通しているような気になってくる。量だけは多い俺のくせっ毛とは全然違った。
「……俺の信じてきたものとは、まやかしだったのか」
 レイがふいに独り言のように言った。声に弱々しさはなく、艶を帯びた低い響きを俺の耳に残した。
「レイが信じてたのも、一つの真実に違いはなかったんだ。でも、それは現実というには悲しくて、未来だというには冷たすぎたよ」
「かなしい…つめたい、か…」
「俺は、遺伝子に欠陥を抱えるクローンが、もっと生きたいって未来を夢見たっていいと思う。あのね、レイ。新しい世界に、クローンを作ろうと考える人間や、悪いことする人間がいなくなったとしてだよ…レイはそれでほんとうに救われるの」 
 二度と悲しい宿命を背負ったクローンが生まれなくなるだけじゃ駄目なんだ。レイが生きて、その心が救われなければ、新しい世界になんの意味もない。
 俺は、なるべく押しつけがましくならないように気をつけながら、レイにどうか届くようにと言葉を紡いだ。俺の言葉なんかに、特別な力はないけれど、あと少しでレイを変えられるかも知れない手応えはあった。レイを覆う厚い殻に、亀裂は入れたはずなんだ。
「レイの悲しいのは癒されるの。レイの心に生まれてからずっと降り積もって来た悲しいのは、取り残されたまま、レイを蝕み続けるんじゃないのか…?」
 レイの肩が、びくりと揺れた。俺は、髪を梳く手を止めた。
 のそりとレイが寝返りを打った。柔らかな髪とよく知った肌の感触がしたと思ったら、俺の膝に、レイが顔を埋めてた。
 生きていれば、いろんなことがあるもんだ。よもや、俺がレイに甘えてもらえる身分になるとは思いも寄らなかった。
 なんだか、不謹慎だけど、偉くなったみたいで気分がいいな。これが優越感ってやつかな?
 そっと、そっと、壊れ物を扱う手つきで、レイの頭を撫でてやる。
 忘れてた。かつての俺は、家族という単位の中では『おにいちゃん』って役割を振られてたんだよ。優しいおにいちゃん、かしこい良い子のシンちゃん。
 シンちゃんはみんなに愛されてしあわせに暮らしてた。それも確かに一つの真実。今はもう違ってしまったけれど。
 あの頃の俺は、なんの力も持たずに、それでも身の回りの小さなものぐらいは、大事に愛せていたし、守れてもいたはずなのに。
 突発的に望んで欲した力を手にしてから、それが出来なくなった。やり方忘れた。
 身に余る巨大な力は己を滅ぼす。
 俺は、俺自身の吹き上げた怒りの炎で、周囲だけではなく、知らず自分まで焼いていた。
 見えていたものが見えなくなる愚かさは、振り返ってみるととても恐ろしいことだ。
「シン……」
 レイが迷子の子供みたいな揺れる瞳で俺を見上げてた。すらりとした腕が伸びて、曇った俺の顔に触れた。こんなときでも俺の心配をして、俺を癒してくれるレイは、やっぱり傑物だと思うんだよ。ちょっと独裁者っぽくはあるけど。
 その指が開いて、頬を包まれる。こう、レイの指は長いだけじゃなく、造形がきれいで、いくら眺めていても飽きない。
 指を滑らせ、じっくり形をなぞっても美しさの仕組みはわからない。肌と肌が触れるくすぐったさは、体温が溶け合って馴染むころになると、別の感覚に変わってくる。
「おまえのぬくもりが、欲しい」
 どっかで聞いた科白だ。そりゃ、俺がレイに何十回何百回と哀願してきたんだものな。そうして求めることはあっても、求められることはなかったんだから。
 恥ずかしい。すごい恥ずかしい。俺の常時冴えない顔色が、あっという間に朱に染まった。
「どうしておまえが、あんなに俺のぬくもりを恐れながらも求めたのか…わかった」
 レイの双眸が俺を見つめる。指が、色を付けた目元をくすぐっている。
「心が惑うと心細く不安になる。世界にたった一人きりだと、無力を思い知らされてたまらない。不安定な足元が今にも崩れ落ちて、闇に消えてしまいそうだ」
 それは、見たくもなかった弱さ。
 暗闇にひとり。存在のちっぽけさに気付かされ、孤独に囲まれる。
 そして、なおも迫ってくる恐怖という闇が焦燥に火をつけ、身を心を焼く。
 そうなると、自分が一人ではないということを、どうしても確かめたくなる。生きている実感を、他人を媒介に、得ようとする。なにかに縋り付かずにはいられなくなる。
「うん……」
 それはよくわかる。
 レイでも孤独を怖れるの? 自分の価値を見失うことがあるの。
 でも、レイは一人じゃないよ。俺がいるよ。懸命にレイの手へ重ねた手の五指に力を込める。
「俺は、おまえのことを把握しているつもりで、何も理解していなかったのかも知れない」
 レイの手を頬にこすり付けたまま、俺は大袈裟に頭を左右に振った。そうでもしないと、涙をこらえ切れそうになかったからだ。
 がんばろう。レイが俺のこと待ってる。
 俺が手を剥がした途端、レイの手も顔から離れ、マットレスの上へ力なく落ちた。その様は、枯れる前の花が、首を折って頭ごと茎から落ちる姿を連想させた。なに、考えてるんだ俺は。
「…あのさ、じゃあさ、俺が上になってもいいの?」
 嫌なイメージを振り払うように、努めて明るい声で言いながら、レイのインナーの裾から手を忍び込ませる。
 レイの素肌は、驚くほど冷たかった。
 なめらかな肌触りは手に覚えのある通りだったけど、こんなに冷たかったろうか。
「ん……」
 脇腹に手を這わせると、俺の膝の上でレイがくすぐったそうに顔を背けた。目だけが俺を向いて言う。
「それは困る。それは駄目だ」
 随分と可愛らしい声に聞こえるなぁ。覚束ない手つきなのはご愛嬌、インナーを捲り上げ、腕と頭を抜いて脱がす。インナーの下から現れたレイの顔の間近で、舌を出し、拗ねて見せた。
「なんだ、だめなの。…ちぇ」
 クスクスと、レイが可笑しそうに笑った。しばらくぶりで目にしたレイの笑顔だった。 曇り空の鬱蒼とした俺の胸には、光が差したよう。
 そう、俺は、この微笑みが欲しいんだよ。他の何を捨てたって、犠牲を払ったって惜しくはない。なんにだってなってやる。
 着衣を脱ぎ捨て、一糸纏わぬ姿でレイに重なる。思うままその冷たい肌を熱い舌で舐め上げる。
 レイの肌理の整った肌はピカピカで、舐めてるだけで気持ちいい。
 遺伝子にかけられた呪い…テロメアが短いことに起因して、そう遠くないうちに、この美しさも奪われて行くのだろうか。
 身嗜みに気を遣り、自身の美貌を誇りにしているレイにとって、それは辛いことだろう。あんまりだ、そんなの。
 俺の体は、おまえに合わせて形を変える柔らかな体ではないけど、この世界からはぐれようとするのを引き止めるだけの熱ならある。
 俺の内に燃えるのは、もう、怒りの炎なんかではないから。
 どうか消えないで、レイ。この三界から消えないでくれ。

 お互いを分かつ肉体の境界線が曖昧になるくらい。
 どろどろに溶けて判断がつかなくなればいい。
 思いも命も混ざり合えればいいのに。
 どれだけ熱を与え合い、深いところで愛し合っても、
 時間が来たら二人は別れる。
 俺は俺。レイはレイ。
 また、離れ離れ。熱はすぐ凍てつく。
 明日も会える?
 また会える?
 あんまり遠くへは行かないで。
 俺の手が届く場所にいて。失くしたものを追いかけるのはもういやだ。

 僕を置いていかないで。
 あんまり遠くへは……


 to next.


 グッドエンドなのに悲しくしてどうする……


posted by 百武 晶 at 21:50| Comment(0) | TrackBack(0) | SEED-D小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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