2005年11月11日

SEED-D 50話SS「ルート:ライブ」3

レイシン解釈による再構成捏造最終回。4回分けの3回目です。

アニメ寄りのシンに対するフォローは、これが精一杯です。
出撃前、シンのレイへの最後の一押し。
時間移動にご注意ください。シーンによって前後してますので、このシリーズ。

16禁です。
無断転載複写等は厳禁です。






 自軍とも敵軍とも区別のつかないデブリが無数に漂っている。
 生あるものも、戦って敗れれば、ただの塵芥。
 言葉もなく、デスティニーは星の海を渡る…

 あれは、いつだった…?
 レイの創った箱庭でまどろみを貪りながら、楽園の夢を見ていた。
 その楽園に、俺は扉を見つける。
 外の世界と繋がった、一枚の灰色の扉だった。
 出入りは自由。
 取っ手を捻り、扉を押して、開けた視界に広がった景色は、久しぶりに見る外の世界だった。目も眩む、光の洪水。その水鏡に、世界の中の自分というものを見た。
 自分の内側を通して見る狭い世界しか目を向けなかった。外側には気の遠くなるくらい広い世界が続き、様々が影響を与え合いながら事象を紡いでいたのに。他から俺が受けた傷。それによって変化した俺がしたことが、どう他に影響していったのか。考えもしなかったことを考えた。
 世界は広大無辺の円だった。俺は、円の中に無数に点在する命の一つ。他の点と線で繋がることも、螺旋を構成することも拒絶した、孤独で哀れな点だった。
 それは、自らを省みるという、俺がずっと避けてきた作業で。
 しばらくは、外と楽園を行ったり来たりしながら、沈思に耽った。
 失ったものに固執する以外に、過去を振り返ったことがなかったけど、遠ざけていたものがまた見えるようになって…
 頑なに塞いでいた、瞼が開いた。
 目が覚めたんだ。

 レイはまだ夢の楽園にいる。
 俺に、助け出すことができるのかな。
 議長の見せている未来は、幻想だって、どうしたら伝えられるんだろう。
 新しい世界が孕んでいるのは、あらゆるものの退行。ゆるやかに生ぬるく廃ってゆく、何もかも。
 競争のない世界は、停滞する。
 競争がなければ挫折がない、挫折がなければ人は廃退し、退屈する。堕落が始まる。
 そうなったら、待っているのは魂の腐敗だ。
 世界は死ぬ。
 何が幸福かなんて、人による。
 自分の幸福ぐらいは、自分で選んで、決めて、手に入れるさ。
 運命や遺伝子に決定されたくはない。
 レイも、議長が与える未来なんかより、おまえが選んだ幸福に救いを求める方が、ずっといい。
 そんな俺の言葉と、議長への忠誠心がレイの中で相剋し、彼を最後まで苛み続けた。
 ごめんね、レイ。
 でも、それは必要な痛みだよ。
 レイの出自と生い立ちに深く絡んだ、議長の呪縛というべきしがらみは、簡単には振りほどけないようだった。
 石垣に着生した蔦のように。

 最終決戦になるだろう、今度の戦闘の出撃前になってもレイの答えは出なかった。
 俺は、レイを変えることができなかった。
 つまりはそういうことだ。
 力が無さすぎた。
 俺は無力だ。
 でも、それはそれでしょうがない。
 ブリーフィングルームの磨き込まれた床を、唇を噛んで睨みつけていた。無意識に力を込めてしまって、下唇が破れた。鉄くさい血の味が口に広がった。
 レイは、ふわりと金糸を宙に散らしながら、ガラス窓の向こうにレジェンドを見ていた。 じっと、搭乗する機体を見つめているようで、見ていないだろうことは、瞭然としている。
「レイー…」
 無重力の中を、レイの傍らまで泳ぐようにして行く。
 シン…、レイが小さく言い、俺を向いて、すぐに目を伏せた。長い睫毛が、不安に彷徨う瞳を隠すように深い影を落とす。
 俺は、その左肩を掴み、レイの顔を覗き込んで言った。
「レイ、迷ってるのか」
「………俺は…」
「迷うなよ。迷ったら、死ぬ。事がどう運んだとしても、死んじゃだめだ」
「ああ……」
 消え入りそうなレイの声は、糸くず程度の迷いや恐怖まで掻き立て、体中に増殖させる。
 覇気のない、花売りでもやってる方が似合いそうな、今のレイを見ていたら、目を離した隙に消えてなくなってしまうんじゃないかと、怖くなるよ。
 不安になった俺は、いつの間にか、レイの存在を確認するように、両肩を掴んでいた。
「体調は?」
「…悪くない。大丈夫だ」
「そう、良かった。体調不良が原因で、ドラグーン扱うのトチったらカッコ悪いもんね」
「とちらない」
 不服そうなレイが、俺の鼻先を摘んで、少しだけ笑みを見せた。
 たったそれだけでも、今は、俺の胸を安堵させた。
「おまえは…いつか言っていただろう…デスティニープランに支配された世界に、自由はない。人間の可能性を摘む、馬鹿げた計画だと」
「そんなこと言ったかな、俺?」
 レイが、鼻を摘む指に力を込めた。
 呼吸が阻害されるという不意打ちに、俺は面食らってしまう。いや、わりと痛いんですけど、それ。
「その新しい世界を創るために、このまま戦っていいのか…? デスティニーに乗るということは、そういうことだ」
 やってることとは裏腹に、レイの声は低く沈んでいる。それは、まるで川底を水流に翻弄されながら這いずり回る木の葉のようだった。以前なら、軽やかに水面を滑っていた木の葉が、今は見る影も無く、水を含んで重々しい。
 早く、俺の知ってるレイの声が聞きたいよ。
 レイの指が離れたあとの鼻を気にしながら、俺は答えを返した。
「俺の心は、とっくに決まってるよ…」
 それを聞いた途端、レイが柳眉を下げ、表情を歪めた。
「レイは…どうなんだ?」
 端麗な顔が歪んだまま、固まる。どんどん色彩を失って、目が伏せられたのと同時に心までも迷いの海に沈没させてしまった。
 ついには、俺から顔を反らした。
「俺は……やはり…新しい世界のため、戦うしか…ない…」
 それが、レイの答えだった。気分としては、最後通牒の文書でも読み上げられてるようなものだった。俺は瞳を閉じて、途切れがちな言葉が終わるのを待った。
「そっかぁ…じゃあ、俺もそれでいい」
「自分に嘘をついてまで戦うのか。矛盾を抱えながら…」
「嘘なんかついてないよ。言ってることとやってることが矛盾してるかもしんないけど、だからそれは俺がバカなだけで、俺は自分に嘘なんかついてない」
 レイがまた、俺を見た。
「レイは今もまだ、新しい世界に救いがあるって信じてるんだろ? 希望とか議長とか、いろいろ捨てられないんだろ?」
「………」
「だったら、俺もそのために戦うよ」
「シン…、」
「だから、迷うな。迷うなったら!」
 レイが何事かを言いたげだったのを、声を張って掻き消した。せめておまえは手を引けとか言い出しそうな雰囲気だったからだ。そんなことを言わせてたまるか。両肩を掴んだ手に、ぐっと力が入った。
 戸惑うように揺れる、レイの双眸。
 不安や迷いを紛らわす方法を俺は一つしか思いつかなかった。バカの一つ覚えで結構。こういう方法もあるっていうの、教わったのは他でもない、レイだ。ここには俺とレイ以外に人の姿はないけど、ガラス窓の向こう側はハンガーで、整備班の人間がたくさん作業にあたっている。誰かに見られるかも知れないとか、この際、気にするもんか。
「レイ…」
 上目遣いにレイの様子を伺っていた俺は、意を決して顔を寄せると、唇をレイのそれに押し付けた。
 薄く、柔らかなレイの唇。角度をずらしながら何度もついばむうちに、閉ざされていた唇に僅かな隙間が開いた。よし、チャンス。咬合が緩んだそこへ、舌を差し入れる。
 肩から移動させた腕を首に回し、接合を深め、口内を探る。緊張のせいなのか、そこはカラカラに乾いて、潤そうと唾液を送ると、俺の血の味ばかりが広がった。
 反応しない舌をもどかしく絡めとって吸う。されるがままのレイは、受け流して終わるつもりらしい。俺の勢いが肩を押し、レイの体ごと背後へ後退した。ふわふわのろのろと、半ば俺が覆い被さった格好で、宙を泳ぐ。
 一度舌を解放し、溜まった唾液を飲み下した。それから、舌をより奥へ押し込んで、レイの舌の付け根を撫でるように刺激してやった。
「う……」
 レイの肩が大きく震え、反応を示した。俺、知ってるもんね。レイが舌の裏の付け根あたり、弱いの。欲望を発散している時でさえ、理性ガチガチのレイだから、そういうポイントがあちこちにあるわけじゃない。でも、ここは効く。感じるんだ。
 目を開けると、つられて目を開けたレイの困ったような瞳とかち合った。ホラ、やり返さないの? さらに、付け根を攻撃する。
 ここで外されたらどうしようもなかったけど、レイは明け透けな俺の挑発に乗ってくれた。おずおずと、初めてみたいにまごつきながら、俺の舌を探して絡みつく。
 レイの両腕が俺の背を包んで、抱き締める。二人の体は密着し、レイの肩が壁に突き当たるまでキスは続いた。
「…俺、レイを置き去りにしたりしない。手、離さないよ」
 だから、俺を置いて行こうなんて思うなよ。キスのあとで、頬に血色を戻したレイの手に手を添えて握った。
 レイは微笑しながら、小さく首を傾いだだけだった。
 自分から仕掛けた気恥ずかしさに、俺の頬も紅潮していた。火照った顔を隠したくて、またレイを抱き寄せ、その肩の上に顎を収めた。ここはとても収まりがいい。身長差がないと、こういう場合に便利だと思う。
「…あれかなぁ、新しい世界だと、もしかして好きになっていいものまで決められたりすんのかな。好きなもの好きって言えないのかな。運命がキスする相手も選ぶんだったら、きっと俺、こうやってレイとぴったりくっついたりも出来ないんだろーな…」
 それは切実に嫌だな、悲しいな…
 レイは悲しくないのかな。
 重力から解放された、なんとなく落ち着かないその空間で、今はまだ手もとにあるレイの温もりと、鼓動に酔いながら、絶対に失いたくないと思った。
「…そうか……ギルは…タリアと……ばれなかったのが…悲し……から、それで……」
 何か思い至ったらしいレイのつぶやきは、ささやかすぎて俺の耳には届かなかった。二人の顔は逆方向を向いていたから。レイの感情が刹那的に昂ぶりを見せ、目にうっすらと涙を浮かべたことも知らなかった。
 俺たち同じものを見てるよね?
 行き違ったりしないよね?
「俺は、レイのこと信じてる…」
 
 レイが夢から醒めるのを、信じて待つ。
 あとはそれに賭けるしかない。
 人生最大の大バクチだ。
 俺には人を変えることも、偉そうに間違いを正すこともできない。
 レイが雨に打たれていたら、傘を差し出してやるけれど、傘が役に立たないぐらい土砂降りになったら、冷たい雨に一緒に濡れてやることしかできないから。


 to next.


posted by 百武 晶 at 20:56| Comment(0) | SEED-D小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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